【4】サド教師とツンデレ生徒【名前変換オリジナル】

第百八十五話 ページ36

胸にぽかりと穴が開いた気持ちのまま、私は歩き続ける。気づけば、慣れた足は勝手に指導室の前へと私を運んでいた。
扉の前でぼんやりと突っ立って考える。私は今彼に会っていいんだろうか。それは、会長の気持ちを裏切ることにならないだろうか。
あぁでもダメだ。今彼に会いたい。彼に会わないといけない。この気持ちは、彼じゃないと癒せない。

考えるよりも先に腕が動いて、扉を開いていた。
嗅ぎなれた先生の匂いがどこかふわりと香る部屋の中、中心でパソコンをいじっていた先生がはっと顔をあげこちらを見てきた。
パソコン用の眼鏡をはずして、席を立つ。こちらに歩み寄る先生を見て、私は強く唇を噛んだ。

「……邦月……？」

不安に揺れる先生の声を聞いて、先生の目を見る。どこか怯えを含んだ、灰色の瞳。
衝動に任せて、私は思い切り彼に抱き着いた。

「うぉっ……っと、邦月、おい待て、ドア、」

そういえば、開け放したままだった。幸い廊下の外には誰もいなかったようで、先生は私の腕を叩いて離れ、ドアを閉めてブラインドをつける。
そして戻ってきた、私のもとに。

「……お前がその反応するってことは、やっぱり」
「告白、されました」
「……、」

先生が小さく息をのむ。
知っていた事実でも、受け入れたくないみたいだ。

「……抱きしめて、いいのか？」
「……うん」

戸惑いがちに先生は両腕を広げる。私はその二つの手をつなぐみたいに、先生の手の上に自分の手を置く。すり、と先生の親指を撫でた。
次の瞬間、その手は外され私は思い切り抱きすくめられていた。息が苦しくなるくらい力を入れられ、もやもやとした気持ち丸ごと掴まれてるような気になった。

「ちゃんと、ね、ごめんなさいって伝えたの」
「……ん」
「会長、悲しそうだった」
「そうか」
「……私が傷つけちゃった。私の、言動が」
「……お前は悪くねぇよ」

視界がじわりと滲むさなか、はたりと私は思考をいったん止める。
気のせいかな。どこか、先生の声が、揺れている。

「……せんせ？」
「……お前が帰ってこないかもしれねぇと、」

ぽつり、と先生がこぼす。
こんな不安げな声、初めて聴いたかもしれない。

先生も、悩んでいたんだ。
いつも自信満々だから、悩んでるのは、怖いのは、私だけだとずっと思っていた。

「……よかった……」

ぐ、と私を抱きしめる腕に力が籠められる。
先生の頭が押し付けられてる肩口に、湿った感触。

「……先生、泣いてるの？」
「……うるせぇ」

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