第百五十二話 ページ3
ま た や り や が っ た……!
思わず心の声の言葉遣いが汚くなってしまうのも、仕方のないことだろう。
どうして全校生徒が集まるような、こんなところで、この教師は、こんな、きざな、ことを……!
だがここは舞台上だ。声を張り上げて文句を言うだなんてことはできない。
私はぐっとこらえ、演技を続ける。握られたままの手はすごく熱をもっていて、それと同じくらい私の顔も熱い。
「……あなたは、帽子屋の」
「あなたを助けに、馳せ参じたよ。アリス」
「……いちいちきざなのね」
恨みがまし気にアドリブのセリフを入れる。
それで少しはあわててくれるだろうか、と思ったけれど。いかんせん、相手はいつもすかしたあの先生だった。
く、と口端をあげて余裕の笑みで笑った彼は、そっと右手で私の頬に触れる。
「君が笑ってくれるから」
「っ……何、それ……」
きざすぎて、思わず演技も忘れてふは、と笑ってしまう。
あぁもうだめだ。私はたぶん彼に甘んじて振り回されなきゃいけないんだ。だって勝てないもん。
どうしたって、好きな人に勝てるはずがないんだ。
「……」
ふと、急に黙ってしまった彼の顔を見てみる。
彼は何故か呆けた顔をして、私を見ていた。だが私が声をかけられる前に、彼はいつもの表情に戻る。
「さて、アリス。ここから立ち去ろう」
「え、ちょっ……」
急に立ち上がった先生は、痛いくらい急に私の腕を引っ張る。
ここからは台本通り。先生につられて少し悪ふざけが過ぎてしまった、アドリブを入れてクラスメイト達を困惑させてしまった。
だけど、先生のセリフを合図に、クラスメイトはちゃんと続きを演じることができたみたい。
「なっ、……何をボーっとしているのお前たち! あの不届き者をとらえて!」
「で、ですが、クイーン! マッドハッターはアンタッチャブルで……」
「……っ、くぅう……!」
大袈裟なまでに悔しがる演技をするクイーン。
“アンタッチャブル”というのは、千佳がつけた設定。帽子屋……マッドハッター含め、お茶会に参加する人たちはみな、赤の女王の手の届かない権力を持つ。
まぁ、いわば政府と警察みたいな間柄だ。政府が赤の女王で警察がマッドハッター率いるお茶会組。
一時間ちょいの演劇にここまで設定を組み込める千佳ってすごいと思うの。
「走るのが遅ぇぞ、捕まるだろうが」
ひそりと耳元で悪戯気に囁く先生。つい私も笑って小声で先生に返してしまう。
「そしたら先生囮にして逃げますので!」
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始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - ステラさん» うわー嬉しいです!幸せだと言ってもらえることこそが幸せです!本当に励みになります!本当にありがとうございます!! (2022年2月5日 23時) (レス) id: 5d704cea99 (このIDを非表示/違反報告)
ステラ - 面白すぎて最近読み始めたのにもうここまできちゃいました!!!めちゃくちゃドキドキしてます!!素敵なものが読めて幸せです! (2022年2月2日 23時) (レス) id: 3475edfef8 (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - 彩華さん» ツボ!!!!!うれしい!!!!!!更新遅くて本当に申し訳ございません。励みになります。頑張って更新します〜!! (2021年11月20日 18時) (レス) id: aebfacbb01 (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - Amamiyaさん» ありがとうございます!亀更新にもほどがありますが、完結させず放置することは絶対ございませんので、たまに覗きにきてやってください…!応援、励みになります! (2021年11月20日 18時) (レス) id: aebfacbb01 (このIDを非表示/違反報告)
彩華 - やばい。ツボすぎます!一気読みしちゃいました!更新頑張ってください! (2021年4月1日 22時) (レス) id: da4daeacca (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:∧∧ネコミミ∧∧ | 作者ホームページ:
作成日時:2019年5月19日 17時