第七十八話 ページ29
やがて部屋に静寂が訪れる。
先生は呆然とした顔のまま、まるで時が止まったようにピクリとも動かない。
体の自由が利かない。
心臓が体を突き破ろうとしているかのように、心臓が耳のすぐそばに移動したかのように、鼓動がうるさく聞こえる。
そして先生はゆっくりと、溶けるようにその表情を崩して俯いた。
ふっ、と息を吐く音がして、再び視線が交わる。
ゆっくりと、目を見開いた。
暗い室内で陰がさしている先生の顔の中、その灰色の瞳が光を反射する。
優しくその眼は細められていて、困ったように眉は下がっていた。
口許に浮かんだ笑みはいつもの勝ち誇ったような、口角を曲げただけの笑みだったがどこか優しくて、もの悲しそうにも見えた。
「……せんせ」
そんな、切羽詰まるような、心を刺すような表情を見せて私は呆然と彼を呼ぶ。
だけど私が呼び終える前に、先生のその薄い唇が開いた。
「……拓虎って呼べよ」
「……え」
ぶわっ、と既に熱かった頬にさらに熱が集まる。
慌てて先生を見れば、先ほどまでの表情はどこへ行ったのやら、いつものいたずらっ子の表情に戻っていた。
「バーカ」
ふっと視界が遮られ、すぐさま額に激痛が走る。
「いづっ……!」
「まず俺は先生なんだから、生徒に手ェ出すわけねーだろうが」
「なんでデコピン!?なんで私が被害受けてんですか!?」
「お前が阿呆ヅラ下げてっからだろ」
にひ、と笑って先生は私から離れる。
そんな先生を、私は患部を両手で抑えながら涙目で睨む。
相変わらず性悪すぎる、この人……職種間違えたんじゃないのか。
「それで、兄弟家にいないっつってたけど、どこにいんだ?確か地味に多かったよな、数?」
「え……兄と妹の二人だけです、三人兄弟。 今日は私の帰りが遅くなるので外にご飯食べに行かせてます」
「あぁ、……成程」
それだけ言って、先生は左腕をあげ腕時計を確認した。
「もう7時か。 悪いな、お邪魔させてもらって。 傘、借りれるか?」
「え、お帰りになられるんですか?」
「あぁ、いつまでも居座っちゃ悪いだろ」
「まだ雨脚強いですよ。 弱まるのを待ちませんか?」
窓の外を眺めつつそう言えば、先生もつられて窓の外を見る。
相変わらずバケツをひっくり返したような雨。これでは胡桃たちが帰るのも遅れるだろう。
「……そうだな。 じゃあもう少しだけお邪魔させてもらうか」
そう言って先生は苦笑した。
「はい、一緒に夕飯でも食べましょうか?」
くすり、と私は笑い返した。
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始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - ayakaさん» Rの要素ございました? (2020年6月25日 14時) (レス) id: 6c149362e0 (このIDを非表示/違反報告)
ayaka - [R]つけてください (2020年6月24日 20時) (レス) id: 6bf9ec98ce (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - ゆうきさん» あぁああうれしいです!全力できゅんっと来るような描写をさせていただきます…無駄に多く長い小説をすべて読んでいただき感激のあまり…いや本当に感激です!(語彙力が足りない)ありがとうございます、頑張らせていただきます!! (2017年6月25日 13時) (レス) id: d48db6c0c1 (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - いか糖さん» 本当に長くなりそうなので飽きないって言ってくださってうれしいです……!ワンパターン・テンプレばかりの小説だというのにそんなことを言って下さるなんて…!頑張ります!! (2017年6月25日 13時) (レス) id: d48db6c0c1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうき(プロフ) - コメント失礼します!先生かっこよすぎませんか!?一話から続けて読んでいますが、先生の一つ一つの動作にキュンキュンさせられてます!こんな先生本当にいたらいいのにな…更新がんばってください!楽しみにしています! (2017年6月11日 15時) (レス) id: 6c9139a3b2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:∧∧ネコミミ∧∧ | 作者ホームページ:
作成日時:2014年11月14日 20時