第七十四話 ページ25
テスト期間は生徒たちも勉強で精一杯だと気づいてるのだろう、今日は丸一日自習だった。
しかも先生たちは教室に残ったままだから、気になることがあったらいつでも先生に質問できるといった感じで。
だけど、英語だけは、先生がずっと不在だった。
「……はぁ」
何かあればすぐに先生のことを考えてしまう自分の頭を振りかぶり、私はノートを取り続ける。
お陰様で今日と明日の放課後の分の科目はまとめ終わった。
この調子なら、放課後の勉強会ではまず問題はないだろう。
帰りのHR前の最後の授業が終わり、私はノートを鞄の中に片付ける。
疲れた、早く帰りたいなどと愚痴りながらざわつく教室内。
一人で机に着いたまま暗い表情を浮かべる生徒がいることなど、きっと教室の中の誰もが気付くことはないだろう。
気付いてくれなくて安堵しているのか、
気付いてくれなくて寂しいのか、
よく分からない心情のまま自分のノートを握りしめる。
少しだけ力を込めすぎてしまった手の平の中で、ノートは不自然な形に曲がっていく。
まるで自分の周りだけスローモーションになったような感覚。
自分の周りだけが嫌に静かで、だからこそ頭も働く。
考えたくないことが次から次へと頭の中に浮かんできて、まるで誰かに思考を操られているよう。
心臓を鷲掴みにされたような、響く痛みが胸の中央に広がる。
鼻がツンと来て、目頭がじわりと熱くなって、でも涙は出ない。泣きたくても泣けない、そんな空虚な感触には既に慣れてきていた。
子供の頃から、当たり前のことだったかもしれない。
こんな沈んだ気持ちになる理由はただ一つ。
教室のドアが開き、一瞬教室が静まり返る。
すぐにざわめきを取り戻し、生徒は友人に挨拶をして自分の席に戻っていく。
ファイルを抱え、一人悠々と教壇に向かう男性。昨日と変わらぬ様相、だけどいつもと違って少しだけ雰囲気が刺々しい。
「――HR始めるぞ」
冷たい声。
その視線はどこか遠くに向けられていて、少なくとも私には向けられていない。
「来週から中間だけど、お前ら勉強は?」
「大丈夫です!我らが姉御が教えてくれますから!」
「姉御?」
「委員長のことです!」
男子の一人が私を指差す。
どきりと心臓が痛いくらいに跳ね、慌てて黒板のほうを向く。
何かを、期待しながら。
「……お前ら、ちゃんと先生に頼れよ」
苦笑する先生に、私の時が止まる。
――嗚呼、心臓が痛い。
せめて絡み合うと思っていた視線は、向けられることすらなかった。
328人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - ayakaさん» Rの要素ございました? (2020年6月25日 14時) (レス) id: 6c149362e0 (このIDを非表示/違反報告)
ayaka - [R]つけてください (2020年6月24日 20時) (レス) id: 6bf9ec98ce (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - ゆうきさん» あぁああうれしいです!全力できゅんっと来るような描写をさせていただきます…無駄に多く長い小説をすべて読んでいただき感激のあまり…いや本当に感激です!(語彙力が足りない)ありがとうございます、頑張らせていただきます!! (2017年6月25日 13時) (レス) id: d48db6c0c1 (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - いか糖さん» 本当に長くなりそうなので飽きないって言ってくださってうれしいです……!ワンパターン・テンプレばかりの小説だというのにそんなことを言って下さるなんて…!頑張ります!! (2017年6月25日 13時) (レス) id: d48db6c0c1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうき(プロフ) - コメント失礼します!先生かっこよすぎませんか!?一話から続けて読んでいますが、先生の一つ一つの動作にキュンキュンさせられてます!こんな先生本当にいたらいいのにな…更新がんばってください!楽しみにしています! (2017年6月11日 15時) (レス) id: 6c9139a3b2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:∧∧ネコミミ∧∧ | 作者ホームページ:
作成日時:2014年11月14日 20時