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あ「スタンバイ、お願いします」
「ご苦労様〜。奏、行こう」
奏「うん」
オータムライブの余韻がまだ残る中、俺たちもアイドルとして歌って踊るべく、衣装に袖を通して楽屋の扉を開いた。
今回のライブは、この会場の客寄せの為のライブ。
どうやって見つけたのか、大きい会場なのにカメラが入らない仕事を持ってきてくれたあんずには感謝するばかりだ。
ふわりと靡くマントを着けて、手に持ったマスクを撫でる。
顔を隠してステージに立つなんて…アイドルらしからぬアイドルだけど、ステージに立つからにはファンを楽しませなければ。
Knightsにいた頃は、こんな感情持ち合わせていなかった。ただレオが、泉が居られる場所を守りたくて…そのくせ最後まで戦ってあげられなかったけど。
「ライブが楽しいとか…そんなこと思う日がくるとは」
奏「えっ?」
「ごめん、こっちの話。あー武者震いする…!」
「落ち着いて」と笑われ、あんずもクスリと笑みを零す。落ち着く努力はしているけどどうも難しいもので。
お金を稼ぐため、という単純な動機でアイドルになったのに、いつの間にここが愛しくなったんだろうかと思うと感慨深い。
去年は浴び続けた憎悪や恨みや妬みの他にこんなキラキラした歓声も浴びられるんだなぁと知ったのは、つい最近のこと。
それでも
あ「じゃあ、いってらっしゃい…!」
「奏、行こう。ファンの笑顔を奪ってみせよっか」
奏「うん、行こう」
あのままKnightsにいたら浴びられなかっただろう歓声。
それに応えるためなら何でもしてみせると、そう思えるようになったんだ。
ーーー蓮巳side
蓮「おい月永!貴様はいつもいつもっ…!何度言えば分かる!?」
月「ふんふふ〜ん…♪ ………ん?ああぁあぁぁっ!ケイトっ、退いて退いて!!」
腕を組んで仁王立ちする俺を、月永が押しのける。
意味が分からずにずれた眼鏡を直す間に、立っていた辺りの楽譜をガサガサと漁って一枚の小さな紙を引っ張り出した。
月「あー良かった……ケイトお前!俺の財産に何をするっ、一生後悔させてやろうか!がるるる…!」
蓮「一体なんだと言うのだ……写真?」
英「やあ2人とも。楽しそうな事をしているね?」
月「げえっ!」
突然現れた英智に、月永は露骨に嫌な表情を見せる。その光景に最早呆れながら、手元を覗き込んだ。
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作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2019年12月14日 3時