８４: 説明 ページ34
周りから取り囲むように人が集まって、もうこれは逃げられないと悟る。逃げようと思っていたわけではないけど、何というか…やり辛い。
やっぱり去年のことを根に持っている人はいるし、血縁関係に当たる俺が今更出てきたら腹をたてる人もいるに決まっている。
そんな中で英智は優雅にソファへ座ったので、それに習うように隣へ腰掛けて言葉を待った。
英「まず質問なのだけど…いきなり居なくなったのは何があったからなの？」
「それは単純だよ。要は、誘拐みたいなもの」
周りから驚きの声が上がるなか、聞こえるようにとほんの少し声を張って説明する。
「小さい頃も社交場に顔出したりしてただろ？その時にまあ…謂わば拐われたんだよ」
英「だから父や母はあんなに騒いでいたのか……でもその後は？」
「よく覚えてないけど…御曹司だったからかな、縛られたりはしなくてガバガバでさ。何も出来ないって思われてたのか監視もついてなくて」
英「逃げたの！？」
「おう。今思うとすげえ冷静だったわ」
最早呆れた様子でため息を吐かれ、周りも皆んなポカンとしていた。
英智が額に手を当てて困ったように笑う。
英「何だか、変わったんだね。いつもふんわり笑って頭を撫でてくれたあの兄さんだとは思えないよ…」
「お利口さんにしてたらバレるだろ、育ちがいいのが」
英「そうだ、施設に居たんだよね？月永くんから聞いたんだ。ニュースにもなったのにどうやって…」
月「全部黙ってたんだろ、施設の人に」
英智の言葉を遮るようにレオが言う。
その通りだった。ニュースになって顔も世間に知れ渡り、当然聞かれた。「天祥院Aくん？」と。でも俺が必死に首を振り続けていたら、施設の先生は警察に連絡しないでくれた。
今思えば、あれが運命を分けたのだろう。先生が連絡を入れて仕舞えば連れ戻される。でも俺は戻りたくなかった。
「……10歳にもなれば、分かっちゃうんだよ」
英「何を…？」
躊躇いがちに聞いてくる英智に、口元だけは笑みを浮かべながら答える。
「ああいう世界は汚い。身分の差が激しくて、上の者が下の者を支配する。だから俺が拐われたりするんだろ。そんな汚い場所に戻るのは…いくら優しい俺でも嫌だった」
英「……身代わりに僕を置いて？」
「……夢ノ咲に英智が入って来た時…後悔したよ」
苦い笑みを浮かべて揶揄い調子で言われ、答えながら深く俯いた。
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作者名：瑠璃烏 | 作成日時：2019年12月14日 3時
