戦え舞え舞え藤の花 (ページ10)

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10 雲ページ10

道中、彼がジッと空を見上げていることに気付いた。

___雲を、見ているのだろうか。

そう考えた矢先、彼の口から言葉が零れ落ちる。

「あの雲…何て言うんだっけ…」

「？あれは巻積雲…俗に鱗雲(うろこぐも)や鰯雲(いわしぐも)と呼ばれてますね。この時期に珍しい…雨降るのかな」

律儀に答えた私に、彼は少し驚いたような視線を向けてきた。その視線にキョトンとして瞬くと、彼は驚いた顔のままでゆっくりと口を開いた。

「……詳しいの？」

「それほどでも無いですけれど…私、雲を眺めるのが好きで。尋ねる度におじ様が答えてくれるものだから、いつの間にか」

「へぇ……おじ様って、親は？」

「外出中鬼に喰われまして…私だけ炎柱様に助けて頂けたんです。藤の家紋の家だったんですが…もう廃墟でしょうね」

見開かれた瞳が先程より更に見開かれ、パッと顔を逸らしたかと思えば小さく謝罪の言葉を投げかけられる。

首を振って応え、もう半分以下となった道のりを再び進み始めた。

ーーー

「藤の花…」

「ええ。お母様から貰った種を植えて10年程になります」

「そうなんだ」

枯れかかっている藤を見上げてボーッとする彼、そして腰に携えた刀を見てハッとした。

刀を持っているという事は彼は…

「あのっ」

「ん…？」

「もしかして鬼殺隊の剣士の方ですか？」

「……そうだよ」

それを聞いて、気分が高揚するのが分かった。思わず彼の手を両手で取って詰め寄る。

「あの！もしかして炎柱様は、黄色と赤の髪に大きな瞳の、炎のような羽織を纏ったお方ではありませんか！？」

「え…れ、煉獄さんのこと？」

「煉獄さまと仰るのですね…！」

ようやくお名前を知る事が出来たと興奮を噛み締めていると、聞き慣れた声が意識を引っ張り戻す。

「A」

「おじ様！ただいま帰りました」

「お帰り。其方の御仁は？」

「あ…お名前をお聞きしても？」

彼は相変わらずぼんやりとした声音で名乗った。

「時透無一郎」

「時透さま、送って頂きありがとうございました。あの…炎柱様に言伝をお願いしても？」

「なに？」

「名乗る程でも無い少女1人があなた様に救われた…と、そうお伝え下さい」

彼は少し微笑んで頷くと、思い出したように言う。

「雲の名前…教えてくれてありがとう」

「いいえ、どういたしまして」

彼はひらりと手を挙げて、一瞬で姿を消した。