百八十九 慣れないからかい ページ39
「わざわざここまで来たということは何かあったのか」
「いえ、特に何かあったわけではありませんが。しいて言えばオロチさんの様子が気になってしまって。何度か部屋に来ようとしていたみたいなので……」
オロチさんは持っていた箱をこっそり隠した。
「いや、何でもない。またAが脱走すると思っただけだ。それより部屋で寝ていなくていいのか」
「沢山寝たらだいぶ良くなりました。だけどもう一度寝るつもりです。私脱走なんてしないのでオロチさんもきちんと寝て下さいね」
部屋を出ようと立ち上がるとオロチさんは私の腕を掴んで引き止めた。
引き止めた理由を話すことなく手は垂れた。
オロチさんが小さくため息をつき背を向け寝転んでしまうのを見届けてから私は部屋を出た。
「……変なの」
病人に追求することもできずに私は自分の部屋に戻った。
なんとなく鍵は開けたままにしてベッドに潜り込んだ。
そして中々寝付けず暇を持て余していると部屋の扉がそっと開いた。
「……オロチさん？」
体を起こすとオロチさんがバツの悪そうな顔をして扉の前に立っていた。
「……まだ寝ていなかったのか」
「オロチさんこそ……」
謎の沈黙が流れる。
「……私が脱走すると思ってました？」
この答えは間違いなようだ。
オロチさんは何も答えず顔だけをそらすだけ。
「……一人で寝るのは寂しい？」
これも違うようだ。
あとどんな理由があるか考えてみたけれどまともな答えは何1つ思い浮かばない。
言いづらいようなことであることは確かだ。
私はベッドから出てオロチさんに近づいた。
誰にも聞かれないようにオロチさんの耳元に口を近づけ、息を吹き込むように
「夜這い、ですか……？」
と囁くとオロチさんは突然両手をがっちりと掴んで私を壁に追いやった。
不機嫌な顔をして睨みつけられる。
だけど耳元まで真っ赤でなんにも怖くなかった。
「だってオロチさん私にとても言いにくいことがあったみたいでしたから……。笑わせたら言いやすくなるかなって思って。すみません、こういうの慣れていなくて。何を言えば笑って貰えるかわかっていませんでした……」
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作者名：剣城京菜 | 作成日時：2018年12月10日 18時
