さくらの営み １【オロチ】

三十二 あまい ページ32

淡いピンク色のクリームにふわふわのスポンジ。

金粉を少しだけのせている。

甘い香りがほのかに漂う。

指先でクリームをすくうと、すくわれた部分がつんと角が立つ。

舌先でクリームを舐めると、途端に口の中は甘さが広がる。

同時に目から涙がぼろぼろと落ちていった。


「……美味しい」


それは素直な感想だった。

不思議と花の香りが漂ってくる。

空腹に甘いものは少し胃もたれをしてしまうが、そのケーキは味は柔らかな甘さで、後味はすっきりとしたものだった。


「どうしてだろ、この味前にも食べたことある気がする。……懐かしい感じ」


だけどどうしても思い出せない。


「……いい加減泣くのをやめたらどうだ」


オロチさんは呆れ顔でため息をついた。


「……止めたくても止められない時があるんです。放っておいてください……」


袖口で目元を拭おうとしたらオロチさんは突然、私の頬に指先で触れた。


「口元、ついてるぞ。……これだけではなりないだろう。他に何か持ってこよう」


オロチさんはそう言ってすたすたと立ち去った。


「……あまいな」

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