【東海オン工ア】東海浪漫【短編集】

月は綺麗だけれど遠い：橙 ページ7

『やぁどうも』
動画の中で子供のようにはしゃぐオレンジ頭は私がよく知る小柳津徹也、ではなくて、東海オンエアのてつやで。

他人から見たら同一人物だと思うかもしれない、
けど私からすれば全くの別人だ。
何年も前から一緒にいた彼が人気になるのは嬉しい反面少し寂しい。知らない彼がどんどん増えていって、私一人だけ取り残されるような。

前はあんなに近くにいたのに
今ではもう完全に届かない人。

今更気づいたって遅くて。

叶わない恋になっちゃったなぁ、
なんて悲劇のヒロインぶってみる。

『バイバイっ』
カメラに向かって手を振り今日の動画の別れを告げるてつや。それがなんだか私に向けられているようで、見てられなくて、iPhoneと重い体をベッドに投げ出した。

＊

面白くないバラエティ番組を右から左へ
聞き流しながら、好きでもないお酒＿350mlの
缶ビールを右手で持て余しているとき、
ふと外を見るとベランダの鉄柵から覗く夜空が
あまり綺麗だから徹也の声が聞きたくなって。

投げ出してあったiPhoneを手繰り寄せ、
通話ボタンをタップする。
「もしもし」

『おん、どした？』
「いま、月がすごく綺麗なの。
それだけ、なんだけど」
『や、馬鹿うれしい』

すると、スピーカーの向こうの風の音が強くなった。きっと彼もベランダへと出たのだろう。

『…うわめっちゃ綺麗やん！ あー月行くの、
夢なんだよね。って、Aは知ってるか』
「高校の頃もよく言ってたもんね」
「けど、月って遠いんだよ。」
好きなのに遠い徹也と、
綺麗だけど遠い月を思わず重ね合わせた。

『遠いからこそ綺麗なんだよ、どっちも』
『…なんつって』

それ、どういう意味？どっちもって？
聞こうと思ったけど、奥から微かに虫眼鏡さんの声が聞こえたので思わず口を噤んだ。

"てつやー、撮影"

『げ、…ごめん！切るわ！またかけ直すから…』
「忙しいでしょ？いいよ、またね、徹也！」

彼がなにか言いかけたけど、
半ば強引に会話を終わらせ、
聞かないふりをして通話を切った。




月は綺麗だけれど遠い。
＿貴方を愛しているけどもう手が届かない。

海が綺麗ですね：黄→←貴方なら月明かりがなくても来れるでしょう：茶

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