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sacrifice〜24 ページ28

血圧計の水銀は最高値から少しずつ下がっていく。
それを目で追ううちに、目を閉じたくなる。


うんと昔、時の権力者は不老不死を求めてこの水銀を口にしたという。
勿論それは迷信に過ぎなかった。
それはかえって自らの身を傷つけ寿命を縮めることになったわけだが。

そんな、縋れるものがあるのならば縋りたいものだ。今すぐにでも。
それがあれば、選択を渋る時間ならいくらでもつくれただろうか。
否、そうも言いきれないか。


「もちろんあなたの望みの両方を取ることはできない。
キィを傷つけることもあるかもしれない。だからこそよ。
今のうちに、きちんと話しておくべきじゃないかしら。『もし自分が死んだら』ってことを。」


そんなこと言えるだろうか。
もし自分が死んだら、娘は幸せになれるのだろうか。

でもこの世界にあるのは、不老不死の薬でも、ユートピアでもなくて、エヴァといういわば鉄の塊だ。
何世紀もつづく歴史の技術の最高点が、これだというのだろうか。

これが人類の希望だってそういうのか。

言えないじゃないか。結局は。
希望の裏には絶望が潜んでいる。


「あの子にとっては酷く難しい問題かもしれない。でも少しずつでいいから伝えていくべきよ。これからどう物事が転じるかわからないからね。」

血圧と脈拍は正常ね、と聴診器を外して機器を外す。
外した部分に血が巡っていくのがよくわかる。生きている、と感じる数少ないときの一つだ。
明後日の方向を見続ける私を見て、コズエさんは続ける。

「人の命には限りがある。それは普遍的なこと。
早く死ぬか長く生きるかなんて、私たちの決められることじゃないの。
ひょっとしたら私だって、明日転んで頭打って死んじゃうかも」

「やけに現実味ありそうな冗談はやめてよ」

私そこまでおっちょこちょいかしら。とコズエさんは笑う。

「とにかく。あなたは今を生きることに専念しなさい。キィちゃんに寂しい思いさせないであげて。」

今を生きる。
簡単そうな、難しそうな。

何なんだろう。
どうして私、今こんなに、泣きたいんだろう。
急に怖さが私を飲み込んでいって、浮遊感のような感覚が襲った。

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茉莉 - めっちゃ最高です!更新楽しみです!頑張ってください((๑•̀ㅂ•́)وガンハバレ~!!! (7月30日 19時) (レス) id: 1907f3ec8e (このIDを非表示/違反報告)
kaori - 続きがテニスの王子様めっちゃ気になります! (6月22日 19時) (レス) id: 1907f3ec8e (このIDを非表示/違反報告)
kaori - 読みました! (6月22日 19時) (レス) @page36 id: 1907f3ec8e (このIDを非表示/違反報告)
かずほ(プロフ) - 初めまして!昨日、シンエヴァ見に行って再び エヴァ 火付いてしまいましたw カヲルくんのとこ泣きました! こちらの夢小説シリーズ読ませて頂きました!更新楽しみにしてます! (2021年3月19日 19時) (レス) id: 4ea2670edc (このIDを非表示/違反報告)
RUKA(プロフ) - 長々とコメントを書いてしまい、ごめんなさい。続きがとても気になります。更新頑張ってください。 (2021年1月30日 9時) (レス) id: 4977de0b73 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:紅坂紅子 | 作成日時:2016年2月14日 1時

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