チート夢主大戦争【オリジナル】

第８話：出会って３秒で乞いに墜ちる（１） ページ9

「何だかよく分かんねぇが……お嬢チャンのお陰でクソガキを捕まえられたぜ!へへへっ、こいつらが気絶してるうちに、早速アニキに報告だ!!」

勝ち誇るようにほくそ笑み、懐からスマホを取り出した大男。走りながら騒いだためにかすれ気味のだみ声が、彼にとって馴染みのある空間にこだまする。

ここは、数話前に大男と摩那が因縁の対決をした件の廃工場。その奥にある油ぎったドラム缶の傍には、しめ縄のように太いロープでまとめて縛られた二人の少女が寝かされている。……否、放り出されていたの方が正しいかもしれない。この惨い所業は、業務用の、しかし幾分弾んだ声で電話口におべっかを使っている大男によるものだ。しかし現在、そんな彼とは対極の感情を抱く者がいた。


――こんな筈じゃなかったのに……!

眉と目頭が繋がるのではないかと思われる程に眉間に皺を寄せ、摩那は虚空を睨んでいた。その険しくも美しい表情は、長く豊かな髪――余程乱雑に扱われたのだろう、今は大分乱れている――によって隠されている。先程、突然空から降って来た謎の美少女と激突し、一時は気を失っていた彼女だが、とうに目を覚ましていた。そして、密かに練っていた脱出計画を今完成させたのである。目の前のオジギソウに聞こえないよう小さく舌打ちした彼女は、後ろに密着しているふわふわと甘い香りの桃色の髪に、忌々し気に吐き捨てる。

「どうしてくれるの、全部あんたのせいよ!いつもなら、あんな鉄砲玉如きに捕まったりなんてしないのに……!!」

計画を伝えるには気が立ちすぎているのか、音量を絞るべく低めたアルトの声に、剣のある感情が張り付いていた。しかし、その矛先となっている少女に反応はない。摩那の苛立ちは募る一方だ。

「ああもう……!ほんとムカつくっ!!人様に迷惑かけといて、謝罪もない訳!?」

「……」

「ていうか、あんた誰よ!?せめてもの礼儀として名乗りなさいよっ!!」

少女はただじっと俯いている。ちょっと聞いてんの、と摩那が背中を揺さぶるが、やはり微動だにしない。男の気が緩んでる隙に二人で脱出するという計画のため、摩那はこれでもかと感情を抑えていた。だが、相手の頑なな態度に耐え兼ねたのか、遂に堪忍袋の緒が切れてしまった。

「あんた本当に何なのよッッッッ!!!」

張り詰めた叫び声が、だだっ広い空間へ奔放に拡散する。そして、一度感情を解き放ち我に返った摩那は、その過ちを自覚した。だが時すでに遅し。残忍な追手はゆっくりと振り向いた。

第９話：出会って３秒で乞いに墜ちる（２）※ちょい怖→←第７話：日常の崩壊〜ｓｉｄｅ巳波〜

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