チート夢主大戦争【オリジナル】

第４話：世界を虜にするグレー ページ5

「『お願い』

君が笑ったら、嬉しぃの

だって、ぁんなにもお日さまがきらきらするよ

きっと、君の笑顔が素敵だからだね

でも僕は、お日さまよりもきらきらな気持ちだょ

ほら、今日も君に恋してる


君が泣ぃたら、苦しぃの

見て、お空が貰い泣きしてる

きっと、真っ直ぐな君に共感したんだね

でも僕は、雨よりもしくしく泣いちゃうょ

ねぇ、今日も君に恋してる



僕の大好きな君

君といつまでも一緒にぃたぃ

君の癒しになりたぃ

君の支えになりたぃ

君が望むなら、

僕はなんだってするよ

命を差し出しても構わない

だから、お願い




朗読中の生徒は、そこで一呼吸置き、俯いた。

ある昼下がり、中学校の片隅に位置する教室では、創作詩を発表する授業の真っ只中であり、静寂に包まれていた。だが、時折誰かが鼻を啜る音がする。全員の意識は、教卓の前に佇む生徒に注がれていた。

生徒は、名を有栖川柊羽と言う。真っ白な裾広がりのボブがあどけなさを際立てる、中性的な美形だ。彼には性別がない。というよりは、性別不明だ。体は男性のそれであるが、自身にしっくりくる性別を見つけられなかったらしい。それ故、どちらとも取れる様な髪型をしている。声変わり直前の少年に特有な、切なさを帯びたボーイソプラノも相まって、幻想的な儚さに包まれている。


――そろそろ、かな。

そう心の内で呟いたのは、柊羽である。先程言葉に詰まってから、実に30秒程が経過していた。彼、と呼んでいいのか分からないため、ここからは名前で呼んでおこうか。

柊羽は別に、詩の続きを忘れてしまった訳ではない。寧ろ柊羽の脳内には、緻密なまでの台本が構成されている。どれぐらいの速度で読んで、どう強弱をつけて、間の取り方をどうするかに至るまで、それは事細かく。従って、先程の詩の表記が多少おかしいのは、柊羽の発音を忠実に再現した所以のことである。

柊羽がかくもこの朗読に尽力しているのは、偏に、愛され願望によるものである。柊羽は幼少期、両親から虐待を受けていた。今も愛情に飢えている柊羽にとって、全ての人は自分を愛して然るべき存在である。この朗読は、愛情を得るための手段なのだ。


彼は潤んだ瞳を上目使いにしながら、徐に顔を上げた。そして、


「僕を捨てないで




……ずっと、愛して。」


涙が一滴きめ細かな頬を伝い、弾けた。次の瞬間、教卓の周りには涙にむせぶ人垣が出来た。皆に抱き締められるあの表情程、幸せに満ちたそれを私は知らない。

第５話：IQ197の天才少年→←第３話：無敵の魔法少女

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