結論、これは恋ではない。 (ページ9)

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9.幼馴染の定義ページ9

小さい頃、ピアノを習っていたことがある。

兄さんの誕生日にサプライズで練習したピアノを披露した時。

母と父、何よりも兄さんがとても喜んでくれて、もっと上手くなれば皆喜んでくれるのかなと淡い希望を持って始めた。

最初は順調だった。
何度か賞状だって貰ったし、広い会場で演奏したことだってあった。

私が道を間違えたのは、とある大きなコンクールの予選に何かの間違いで通ってしまったことだろうがきっかけだろう。

三十人くらいのピアノ教室で、たった二人が本選に通った。

当然、練習は予選に落ちた子とは別。
それからというもの、ピアノ教室で出来た友達とは完全に疎遠になってしまった。

＿＿＿Aは演奏が上手いから、大丈夫だよ。

隣でそう言ってくれた、ひとつ年上の幼馴染とはもう…何年も顔を合わせて話をした覚えがない。

｢…人の事情にとやかく言う前に、自分のことをどうにかしろというメッセージ｣

では無いことは分かってる。

兄さんが私と彼の間に何があったかを知っているわけないし、それを咎めるような人ではないから。

でも、そっか。

｢幼馴染との気まずさってこういうことか｣

私のものとはちょっと違うけれど

顔を見たら｢話しかけたいな｣とか思ったり

噂を聞けば現実との齟齬に違和感を抱いたり

もう一回、普通に挨拶がしたいと思ったり

そう思った瞬間には逃げ出してるとか。

そういうことなんだろうな、”気まずい”って。
だったら、私が彼にかけれる言葉はない。

｢…じゃあどうやったら彼は私の安寧の地に来なくなるようになるんだ｣

開いたノートの上に腕を置いて、顔を伏せる。

数ヶ月。
顔を合わせる時がまばらだとしても数ヶ月。

彼は私と食べる場所が被るとよく喋ってくれた。
ニコニコ笑って様々な話題を振ってくれる彼に対し、私が返せるのは軽い相槌のみ。

つまりは、申し訳ないのだ。

私のぼっち飯に付き合わせているみたいで。

色々拗らせて限界人見知りになってしまった私としては、彼に一刻も早く元の生活に戻ることを推奨したい。

私のように関係を完全に遮断しているわけではないから、何処かに改善の道がある筈なんだけど正直検討は付かない。

漏れ出たため息を吐いて、伏せていた上半身を起き上がらせる。
ノートに書いていた文字の少しだけ腕に写っていた。

｢……『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』か｣

あんまり気分は良くないけれど、一つだけ案が浮かんだ。