5.犠牲になった卵焼き ページ5
翌日、彼は教室で何も言ってこなかった。
それもそうだ。
言葉も交わしてないし、何なら奇人めいた行動をしたのはこっちの方。
あの優秀で優しいと噂の彼にとってあの一件は、忘れゆく日常の些細な出来事に過ぎないのだ。
そう思うと酷く安心した。
暫くはあの倉庫裏にいかない方がいいと小一時間の脳内会議で決まり、あの場所には暫く近づかないように心がけた…つもりだった。
どうやら問題は、あの場所ではなかったみたい。
｢あ｣
｢…｣
再会はゴミ捨て場付近のベンチ。
箸で挟んでいた卵焼きが無惨に地面に落ちた。
｢あぁ、待って、待って！｣
落ちた卵焼きを手で拾い、蓋を閉めると彼は慌てたように声を上げる。
｢何もしないから、逃げないで｣
そう言って彼は微笑む。
その笑顔はよく教室で見るものだったけど、少し違和感がある。
いつも見ている訳じゃないから詳しいことは分からないけれど、疲れた時の兄の笑顔に似ているな、なんて頭の片隅でぼんやり思った。
だから、この時は逃げなかったのだ。
正しくは逃げられなかった。
彼は嬉しそうに隣のベンチに腰掛けると、顔をこちらに向けて話始めた。
｢俺もここで食べていい？｣
｢え、あ…｣
全身が縄で縛られているようで、苦しい。
これは彼だけではなく、あまり話したことの無い人相手ならば誰にでもなる現象だ。
兄曰く、人見知りを拗らせるとこうなるらしい。
情報のソースがどこにあるかは知らない。
｢わ、たしに許可、取るような事じゃないと思う｣
｢そっか、じゃあ好きにする｣
投げやりのような言葉尻を聞いても彼は笑っていた。
よく分からない展開で気まずさもあるが、少しだけその変わらない笑顔が怖い。
妙に静かで神妙な空間。
ろくな会話もできる気がしない私のやれることといえば、自分の咀嚼回数を数えることだけだった。
三十回噛んでは飲み込み、次のものを口へ運ぶ。
それを何度か繰り返した後、隣にいた彼が突然口を開いた。
｢あの場所さ、いい場所だね｣
｢…あの、場所？｣
｢倉庫裏｣
き、昨日の話題だ…
全力疾走で逃げ出した記憶が今になって蘇る。
口の中のあるきゅうりの漬物がやけに酸っぱく感じた。
｢いつもあの場所で食べてるの？｣
｢…いや、別に、いつもっ、ではなくて｣
｢あ、そっか。今日はここで食べてるし、いつも同じ場所ではないのか｣
一体何が言いたいんだろう。
…もしかして、ひとりで食べていることを弄られている？
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ぴ(プロフ) - 展開がまだ分からないんですけどワクワクしてます〜！更新停止中？みたいなのでしばらく更新ないのかもしれないのですが、気長に待ってます😌😌😌 (7月1日 0時) (
レス) @page14 id: d5c63dc535 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ナナシノゴンベ | 作成日時：2023年3月29日 1時
