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「おい、A!!A!?」
俺の腕の中でぐったりとするAの身体は冷たく、特に黒く染まった指先が特に冷たい。
まるで氷に触っているようだ。
それなのに吐かれる息は発熱したときのように熱く、荒い。
〈俺に触れたらお前はーー〉
楓は、こうなることを知っていて彼女が自身に触れることを恐れたのだろうか。
苦しそうに息をするAをベッドに寝かせようとするも、彼女の手が俺の服を強く掴んでいる。
その手は震え、今にもするりと服を離してしまいそうに見えるのに、ベッドに寝かせたほうがいいはずなのに、俺にはその手を離させることができなかった。
「…どうすれば良いんだ…」
「ごめんなさい」
頭を抱えたとき、後ろから声が聞こえた。
振り向けば、そこには楓がいて、両手で顔を覆って泣いていた。
「ごめんなさい、ごめん、柊。俺はもうお前と同じでいられないのに。それでももう一度会いたくて、でもやっぱり」
顔を上げた楓は、辛そうに笑う。
「お前が困るのは、嫌だなぁ」
俺が彼の頭を撫でようとしても、その手は空中を切り、彼には届かなかった。
「すまない」
「ううん。柊は、いい人を見つけたんだな。今貴方には俺の存在を触れられなかったように思えてるだろうけど…俺は、優しくて、温かく感じたよ」
彼の暗い瞳はいつの間にか優しい少し茶が混じった色になっていた。
ふわりとAを覗き込むと、楓は小さな両手で彼女の頬を撫でた。
「俺の存在は、此処にいると害を及ぼしてしまう。俺は逃げてた。俺がそんなわけないって、必死に逃げてた。でも、もう逃げない」
逃げないと言いながら、その目には涙が流れていた。やはり、己が世界にとって、家族にとって害であるなどと認めたくはないだろう。
「…柊は俺で、俺は柊。それは、柊の幸せは、俺の幸せってことでもあるんだよ?」
楓がAの額にこつりと自身の額を合わせる。その瞬間Aの体から黒いものがなくなった。楓に吸い込まれたように見える。
「ん…か、えで…?」
「さよなら。幸せになってね、A。俺が言いたかったのは、これだったんだよ」
目を覚ましたAは目を見開いて、楓の顔をじっと見つめた。そして泣きそうに微笑んだ。
「うん。ありがとう」
楓は優しく微笑んで、黒く、白く光りながら消えていった。
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ユキ(プロフ) - さちさん» コメントありがとうございます。個人的にとーる君は書いていて楽しいので、この話が一段落しても出てくるかもしれません( ̄∇ ̄*) (2019年3月29日 22時) (レス) id: 370884fb03 (このIDを非表示/違反報告)
さち - おもしろかったです。続きがすごく気になりました。よろしくお願いします。 (2019年3月29日 22時) (レス) id: 1af3590574 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - 奈楠さん» ありがとうございます。学業も忙しくなりますので更新ができない日々もあると思いますが、作品をよろしくお願い致します。コメント嬉しいです(о´∀`о) (2019年3月15日 12時) (レス) id: 370884fb03 (このIDを非表示/違反報告)
奈楠(プロフ) - 受験お疲れ様です!!!作者様のペースで大丈夫ですよ!更新頑張ってください! (2019年3月14日 21時) (レス) id: f44adf4250 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - 明里香さん» 教えて下さりありがとうございました!修正しました。閲覧ありがとうございます。 (2018年8月3日 7時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ユキ x他1人 | 作成日時:2018年5月20日 18時