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寝間着を着ようと目を離していると、視界の端で赤いものが動いた。気ながらふとそちらに目を向けると、Aがシャツを羽織って腕を通していた。俺の視線に気づいたのか、前のボタンをしたから閉めていく。
「何か言いたいことでもあるのか?」
「まさか着てくれるとは思わなかった」
「……実践、してるんだろう」
Aはヘアゴムで纏めあげていた濡れた髪を解き、濡れた黒の長髪のバスタオルで大雑把に拭いて湿気をとる。
「とーる君、乾かそう」
「うん」
このあと俺が乾かしてほしいと甘えたところ、徹はにこにこと笑っていた。あとで聞いたところ、【父さんと母さんは乾かしっこしてる】んだそうだ。まぁそれからバカップルならぬラブラブ夫婦の近況を知らされた。同僚め、教育に悪いぞ。
徹は髪を乾かし終えると眠気が限界だったのだろう。船を漕いだあとにかくんと眠ってしまった。
ところで。
「とーる君は何処で寝ようか…一人は可哀想だ」
「じゃあ三人だな」
「川の字か、やってみたかったことではある」
やってみたかったこと。
幼くして両親をなくした彼女にとって、川の字で親子で寝ることはやってみたかったことだったのだろう。そう考えると少し胸が苦しかった。
けれど、俺にとってもっと苦しいことがあった。
「A、少しいいか」
「あぁ、リビングで話そう。徹くんを寝室に寝かせてくる」
徹を抱き抱えて寝室へと向かうAの背中は、少し母親の背中が重なって見えた。
戻ってきたAは、ソファに腰かけていた俺の隣に座り、肩に頭を預けてきた。
温かい人の温度に、心が安らいだ。
「…君は、子供は好きか」
「好きだ」
少し言葉に詰まって、次の言葉を探していると、頬に柔らかい感触があった。
「私は、子供を欲しくないわけではない。いずれは血の繋がった家族が欲しいとも思っている」
頬にAからキスをしてくれたのだと気付いた。それと同時に、申し訳ない気持ちが込み上げてきた。
「けれど、私は今じゃなくていい」
「…何故だ?」
「いずれ、子供が出来たなら…二人でたくさん愛してやりたい。だから今じゃないんじゃないかと思っている」
目が見開いていくのが分かった。
俺よりもずっと、Aはこれからを考えていたのだ。
あ、とAは呟いて、顔を赤らめながらクッションを抱いた。
「…言っておくが、できたらできたで時期は関係なく産むぞ」
「あぁ、ありがとう」
頬を撫でると、少しくすぐったそうに笑った。
「…ん」
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ユキ(プロフ) - さちさん» コメントありがとうございます。個人的にとーる君は書いていて楽しいので、この話が一段落しても出てくるかもしれません( ̄∇ ̄*) (2019年3月29日 22時) (レス) id: 370884fb03 (このIDを非表示/違反報告)
さち - おもしろかったです。続きがすごく気になりました。よろしくお願いします。 (2019年3月29日 22時) (レス) id: 1af3590574 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - 奈楠さん» ありがとうございます。学業も忙しくなりますので更新ができない日々もあると思いますが、作品をよろしくお願い致します。コメント嬉しいです(о´∀`о) (2019年3月15日 12時) (レス) id: 370884fb03 (このIDを非表示/違反報告)
奈楠(プロフ) - 受験お疲れ様です!!!作者様のペースで大丈夫ですよ!更新頑張ってください! (2019年3月14日 21時) (レス) id: f44adf4250 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - 明里香さん» 教えて下さりありがとうございました!修正しました。閲覧ありがとうございます。 (2018年8月3日 7時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ユキ x他1人 | 作成日時:2018年5月20日 18時