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「待ってくれとーる君、それはな、君のお父さんとお母さんの仲だからであってだな」
「とうさんはかあさんのことすきだしかあさんはとうさんのことすきだよ。しゅういちとAおねえさんは、そうじゃないの?」
あぁ、俺は狡い。助け船ならばいくらでも出せるだろうに、それを出さないでいる。
追い討ちをかけるように徹が言葉を紡ぎ、逃げられなくなったAは諦めの表情を浮かべた。
「…分かっ、た。幸いここの風呂は広いから、3人で入ろうか」
無邪気に喜ぶ徹を見て、Aは笑っていたが、ふと俺と目が合うと秒でそらされた。
今更だが、俺以外にAの裸体を見せることになるのは少し微妙な心境だ。俺もまだ見たことはないけれど。
「とーる君、好きな入浴剤を選んでくれ」
「いっぱいある…」
難しい顔をして入浴剤を選ぶ徹は、暫く唸っていたが、柚子の香りの入浴剤を選ぶと、Aに渡した。
「これがいい」
「柚子か、じゃあそれを入れよう」
赤井はバスタオルと寝間着の用意を。
そう言われ、準備をしていると、徹が洗濯物はどうすればいいのか、という表情をしていた。服の裾をつかんだまま洗濯機と服を交互に見ている姿は、可愛らしく面白いものだった。
「A、徹の服はどうする」
少し遠くにいるAに問うと、徹が驚いた顔で俺に振り返る。
「洗濯機に入れて回してしまおう。今洗えば明日の朝には乾く」
「分かった。…だそうだ、とーる君?」
「いまさらくんづけしないでください」
ジト目で見てくる徹の珍しい敬語口調に、誰かの影が重なった。
あぁ、安室君か。
彼の名前も漢字は違うが透だったな。
「入るぞ」
「あぁ」
浴室に入ると、徹は目を輝かせていた。
「とーる君、おいで」
「はい!」
敬礼をビシッと決めてAのもとへ行く徹。
見てはいけないとは思いつつも、Aに目が行く。普段腰まである髪が後ろで団子にされているため、うなじが見えるのである。しかも何故かバスタオルを巻いていないのだ。
「バスタオルは巻かないのか?」
「あ」
硬直した彼女は数秒して肩を落とした。
「失念していた。見苦しいが許してくれ」
「見苦しくはないが」
寧ろ見苦しいの逆で困っているんだが。
そんな言葉は呑み込んで、俺は自身の頭を洗い始めた。後ろではシャンプーハットが無いから苦戦しているようで、本当に親子のようだった。
3人とも頭と体を洗い終わり、俺が浴槽のふたを開けると、徹が顔をほころばせた。
「柚子の匂い!」
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ユキ(プロフ) - さちさん» コメントありがとうございます。個人的にとーる君は書いていて楽しいので、この話が一段落しても出てくるかもしれません( ̄∇ ̄*) (2019年3月29日 22時) (レス) id: 370884fb03 (このIDを非表示/違反報告)
さち - おもしろかったです。続きがすごく気になりました。よろしくお願いします。 (2019年3月29日 22時) (レス) id: 1af3590574 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - 奈楠さん» ありがとうございます。学業も忙しくなりますので更新ができない日々もあると思いますが、作品をよろしくお願い致します。コメント嬉しいです(о´∀`о) (2019年3月15日 12時) (レス) id: 370884fb03 (このIDを非表示/違反報告)
奈楠(プロフ) - 受験お疲れ様です!!!作者様のペースで大丈夫ですよ!更新頑張ってください! (2019年3月14日 21時) (レス) id: f44adf4250 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - 明里香さん» 教えて下さりありがとうございました!修正しました。閲覧ありがとうございます。 (2018年8月3日 7時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ユキ x他1人 | 作成日時:2018年5月20日 18時