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「それに俺、もうAが泣いてるところ見たくないねん」
思わず彼の顔を見てしまう。もちろんこっちなんか向いてなくて、地面を見つめているセンラが少し辛そうな顔をした。
「あいつ、昔っから泣き虫で。ちょっとしたことですぐ泣くような子で、幼稚園児のときと、小学生のときは俺がよく側におった。慰め係っていうん?ひたすら背中さすったり、何があったか聞いたりしてた。中学のときはそんなに喋ってないけど、高校になってからも、よく泣くし。もう、見た無いねん」
黙って聞くことしかできなかった。こう聞いてみれば、ずっとずっとセンラさんとAは一緒にいたんだな と思った。幼稚園から、今まで。
彼女は、すぐに泣く。俺も何度も見てきた。何回もこの指で涙を拭った。目にうるうる涙を溜めて、静かに零れ落ちるように涙を流す。
昨日だって、俺が「なんで俺の事を突き放さないのか」と聞いたら、俺の手を弱い力でぎゅっと握りしめて、涙をぽろぽろ落とした。突き放すわけない と必死に言ってくれた。
「…………あかん、俺も泣きそう」
「別に志麻くんが泣いても俺はどうも思わんで」
「やかましいわ」
「……なあ、ほんまにもうAと会えへんの?」
「会え、へん。なんのために俺が突き放したねん」
必死に志麻くんのことを突き放したりしないと言ってくれたAがまた脳裏に浮かんだ。俺が、突き放したのに。ごめんな。とまた涙が出そうになった。
「志麻くんの決めたことに、あれこれは別に言わんけどさ。志麻くんと話し終わったAと一緒に帰ったけど、目真っ赤にして泣いてたからな」
また、センラが慰め係でしたよ、と半分呆れたように笑顔を見せた。やっぱ、泣いてたんやな。
俺もあのとき泣いてしまったけど、罪の重さが違うよなあ。
太陽が沈んできた。そろそろ7時頃だろうか。
「俺帰っていいですか」
「センラさん俺も帰る」
「え、志麻くんとめっちゃ家近いやん。まあ一緒に帰りましょ」
「不満か」
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もちち(プロフ) - コメント失礼します。他サイトにてこちらの作品と同じ題名、同じ内容の小説を発見致しました。何回も見返したのですがやはり文章も同じで気になったのでコメントさせて頂きました。プリ小説というサイトで連載はされていますか、? (2023年4月18日 0時) (レス) id: 65f0ff2c55 (このIDを非表示/違反報告)
LiLi Ka(プロフ) - すっっっごく面白くて!大好きです!一気読みしちゃいましたw (2020年5月24日 16時) (レス) id: ef0b88e85e (このIDを非表示/違反報告)
林檎 - 完結おめでとうございます!この作品が好きすぎてもう何回も何回も見直しています! 最後ら辺は、子を見守る母のような気持ちになりました(笑)ほんとにお疲れ様です! (2020年5月7日 16時) (レス) id: aa4022e14b (このIDを非表示/違反報告)
ひより(プロフ) - 完結おめでとうございます!この話の二人が永遠に見てたいくらい好きなのでこの2人のその後みたいな話短編集とかで欲しいです、、 (2020年4月2日 0時) (レス) id: 4f83e9d9b1 (このIDを非表示/違反報告)
七つ子(プロフ) - お疲れ様でした!この作品は私にとって、お気に入りの中のお気に入りでした!新作も読みます!ありがとうございました! (2020年4月2日 0時) (レス) id: e81a79aa4e (このIDを非表示/違反報告)
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