No.2 ページ2
その内に、音も無しに扉が開く。
「ただいま」
その声に視線を移せば、彼らの背後には一人の人型がいた。
それは見慣れても人間のものには見えない蛍光的な白い髪を揺らして、独特の風格を纏って歩く。
集団は自然と避けて道を作り、その間声を発する者はない。それの前では押し黙るべき不文律でもあるような佇まいで。
その扱いは黒い髪の彼とは同じようで違い、敬意などからくるものとは少し異なっているのだが。
「黒瀬、これお土産」
「唐揚げ!?おぉー、サンキュー白瀬!」
彼の反応を見て、静かに笑む。
それの名は『白瀬太刀』。嘗て反逆組織『Rebel Army』を率いた元首領。
赤い色に飾られたその笑顔はとても端正で、そして極めて冷たい嘘だ。これは実に、虚しいだけの渇いた人型でしかない。
感情と善悪に彩られる人間とは訳が違う。
それでも器用な微笑みには人を穏やかに――あるいは恐怖させる力がある。大層美しい毒花を見た時に似ているかもしれない。
その様子を見た彼らは、ある者は真っ直ぐ、ある者は雑談を交えながら各々の持ち場へ散って行き、やがて部屋には白と黒の二人だけとなる。
「黒瀬」と単調な声で呼び掛けると、彼は好物の効果による本当の笑顔を浮かべて振り向いた。
「あの時――キミが何も答えられないなんて、珍しいね。意外だった」
特に愉快さも憂いも含まれない一言だったが、それは彼の片耳に届くと「ほっといてくれ」と一蹴される。
どうやら、この話は彼にとって気疎いらしい。思い出すのも、考えるのも。
これを続けるなら、彼の希薄な熱意の炎は空気に絡め取られ、憤りに潰されてしまうだろう。
白瀬は笑って「そうか」とだけ返すと、不貞てた顔を横目に、再度あの会議の後、偶然聞いた言葉を確かめるように想起する。
――『素晴らしい』
『あの実験はそんなところまで進んで…』
『はい、本当に…私もまさかこれほどとは』
『しかし、博士は大したお人ですね』
『異能力によって作られた人類、だなんて』――
――およそ思い出せるのはこの程度であった。
実のところ、この事について一つの心当たりがあったが、同時に嫌悪があった。
その上、それは単なる気まぐれで出された、あまり重要でない話題だった事も知った。
しかし、だからこそ思考が芽生える。
「(作られたのは星?それとも…掃き溜める為の空?)」
ふと窓の外を覗けば、活気に溢れた人々が行き交っている。
生きるそれらに、感動も憎しみもなく、ただじっと観察を続けた。
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