選ばれし者とその妹２ (ページ22)

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Story 72 ページ22

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「A！ A！」

　誰かが頬を叩いている。ハーマイオニーの声だ。
　Aは目を開け、ゆっくりと座席から身を起こす。いつのまにか明かりは復旧し、ハリー、ロン、ハーマイオニー、そしてルーピン先生が心配そうに見つめているのが分かった。

　ハリーの無事に安堵したAはふと自分の手を見下ろし、握り拳を作っては開くという動作を繰り返した。手のひらに触れた指先は冷えきっていた。身体中の感覚がどこか麻痺している。頭から爪先までが今も冷気に包まれているような……。

　パキッという音にAは我に返った。ルーピン先生が巨大な板チョコを割り、まず先にハリーとAに差し出して言った。

「食べるといい。気分が良くなる」

　Aはひと口齧り、目を丸くした。手足の先まで一気に暖かさが広がったのだ。体の感覚も戻っている。何か魔法がかかっているのだろうか。

「さっきの人は、死神……？」

　Aの呟きにルーピン先生は首を横に振った。

「あれは吸魂鬼(ディメンター)といって、普段は監獄アズカバンで看守をしている。今日ここへ来たのは脱獄囚の捜索のためだ」

　あれが例のアズカバンの看守……。Aはダンブルドアやアーサーが彼らを嫌っていることを思い出し、その理由に納得した。
　脱獄囚――大量殺人鬼シリウス・ブラック。列車に乗る前、ハリーとAはアーサーからこう言われた。『何を聞いてもブラックを探してはいけない』。

「失礼、私は運転手と話してこなければ」

　他の皆にもチョコレートを配った後でルーピン先生はコンパートメントを出て行き、通路へと消えた。

　そこからロンとハーマイオニーは兄妹が意識を失った後に起きたことを説明してくれた。ルーピン先生はまずAを吸魂鬼から引き離し、立ちはだかる影に杖を向けてこう言った。『シリウス・ブラックをマントの下に匿っている者は誰もいない。去れ』と。それでもその場から動かなかったため、呪文を唱えて追い払ったのだという。

「あいつが入ってきた時、妙な気分だった」ロンが身震いする。「もう一生楽しい気分になれないんじゃないかって」

「Aが一番危なかったわ。身体中が冷たくなってて、死んでしまうんじゃないかって思うと怖かった……」

「あんなのに抱きつくなんて、絶対真似できない」

　吸魂鬼に触れている間、クィレルの声が聞こえたのをAは覚えていた。一番つらい記憶を呼び起こされてしまったことを。