Story 28 ページ29
二人はAの魔法のことも知っていた。Aの周りで不可思議なことが起こらなくなった頃からハリーの時ほど邪険に扱わなくなった。
何を言われても何をされても怒っちゃ駄目だ。そうすれば私は『普通の子』でいられる。
それからAは怒りの感情を殺すようになった。ダドリーにからかわれても、学校でいじめられても、曖昧に笑って受け流すようになった。そうするうちにいつしか、自分が魔法を使えることすらも忘れていった。
「成績が良かったのも、元はといえば怒りを紛らわすために勉強してたら必然的にそうなっただけなんです……私、私は、おじさんとおばさんに嫌われたくなかったんです」
「……今も、ですよね？ ここに来てからも」
スネイプに嫌味を言われようとも、Aはただ謝っていた。そうしなければ減点されるから。
「お、怒って、いいんですよ？ 寮のことよりも大事なのは、君ですから」
クィレルは思い出したように続けた。
「ロングボトムを助けられたのは、あまりにも突然のことで、他のことを、その、考えてなかったから、じゃないですか？ ただ『助けたい』と思ったから……き、君は多分、誰かの為なら――」
クィレルはそこで言葉を切ると、急に慌てて立ち上がり、窓の陰に隠れた。Aが何ごとかと思った時、馬鹿にしたような声が聞こえた。
「おやおや、誰かと思えばハリー・ポッターの妹じゃないか。こんなとこで何してるんだい？」
マルフォイだった。両端にクラッブとゴイルを連れている。
「君が出来損ないのスクイブだって噂がたってるんだ。兄が有名なぶん、比べられて大変だねえ」
Aは何も言わず俯いた。中庭にいた生徒たちが注目する中、調子に乗ったマルフォイはさらに続ける。
「まあ、あいつもあいつだけどね。額に傷があるってだけで馬鹿みたいにヒーロー気取りだ。大した能力もないくせにね。あ、そうだ！ もしかして、あいつのオツムが足りないのは傷ができてから――」
「ステューピファイッ！」
Aの杖から赤い閃光が放たれ、マルフォイは吹き飛んだ。野次馬が集まるのも気にせず、我を忘れたAは杖を向けたまま叫ぶ。
「私のことはどうとでも言えばいい！ でもハリーを侮辱することは許さない！！」
「ミス・ポッター！」
騒ぎを聞きつけてスネイプが現れた。彼がそれ以上何か言う前にAは駆け出した。呼び止めるスネイプの声が聞こえるが止まらなかった。
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作者名：闍弥嵩 李 | 作成日時：2020年1月2日 17時
