［金神］Snapshot. (ページ4)

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4.時代ページ4

「……迷って」

「あ〜、運悪いね……とりあえずおっかない奴らがドンパチやってるから、大人しく終わるの待とうね」

「ドンパチって」

「お兄さん戦争とは無縁そうな格好だもんな。商いの御坊ちゃま……って聞いてそうだよとも言わなそうだけど」

「喧嘩ですか？」

「あはは」緊張した空気の中で男は笑みを溢した。呑気な、と笑うものはいなかった。「喧嘩かもね、そう、壮大な喧嘩」

椿世は呆然と、坊主の男と共に座っていた。争いの位置関係は変わらず、腕を引かれて立ち上がった頃には発砲音が止んでいた。FPSゲームのワンシーンが思い起こされたが、ゲームほど椿世は身軽ではなかった。

「もうそろそろ普通に移動する分には平気だと思うから。帰れそう？」

見たことのない街並みだった。大学の敷地内にこんなものはなかった。見慣れない低い建物、開けた視界。椿世は膝を折る。立ち尽くすこともできなかった、自分が今どこにいるのか、先ほどまでいたところではない、それだけは事実だったからだ。

「え、何、どう……死体でも見ちゃった？」

死体？椿世は再び呼吸を浅くしながら、地面が黒ずんでいる理由、先程の発砲音との関係に容易く合点がいって、わけがわからなくなり項垂れる。
図書館裏にいっては行けない、あそこは人気がないから”悪い奴ら”の溜まり場になってるんだよ──

命の危険を感じた、椿世は緊張から左の手をぎちぎちと強く握りしめる。爪の先が肌に食い込む痛みだけが椿世を現実から引き剥がさないでいた。それほどまでに、椿世は度胸がなかった。

「お兄さんに危ないことはしないから安心しな〜？そんなことしたらアシリパちゃんが怒るんだから」

「……足利派？」足利も読めないような人間が揃っているのかと自身の通う大学を危惧した。手足の末端はひどく冷たくなっているくせに妙な思考回路だけは働いている。

「ハじゃなくてパね。アイヌの人の名前は聞き慣れないから仕方ないか」

「アイヌ……？」

「なぁにおぼっちゃまは本州の人？都会の坊ちゃんは世間知らずだよね全く」都会も何も、東京の大学だろう。この男はICU卒かなにかだろうか。

戸惑う椿世の耳に、あっけらかんとした男の声はあまりに日常通りであった。こういう人間が案外一番関わってはいけないところと繋がっているものだと、椿世は過去に読んできた漫画から学んでいた。