焦燥 ページ14
「ナイッサー!!」
シューズの擦れる音、掛け声、熱気。
通りすがった体育館からもれていた。
……帰るって言ってきちゃったけど。
吸い寄せられるように足が動いて
気づくと私は体育館の入り口を覗いていた。
そこには、あの日、赤葦さんに
ノートを届けに来たときよりもっと
密な空間があった。
試合中だ。
ふと、コートの中に赤葦さんを見つける。
汗だくで、呼吸を乱して、
いつもと違う、獰猛な目をしていた。
皮膚を焼かれそうな位の衝撃に、息をするのを忘れそうになる。
びりびり、くる。
飛んできたボールがすっと赤葦さんの手に吸い込まれる。
いつ助走に入ったのか分からない位のタイミングで
木兎さんが相手コートに打ち込んだ。
体育館のギャラリーがわっ、と沸く。
全身の毛が逆立った。
景色が遠ざかって、
体温が急激に上がるのを感じた。
なぜか、走って帰りたくなった。
焦燥という単語が頭の中に浮かんだ。
____
ホイッスルが試合終了を告げ、二階の観客席から歓声が上がる。
「よっしゃあああ!」
木兎さんの声を皮切りにチームメイト達と勝利を喜び合う。
練習試合でも本気でやった試合で勝てば嬉しい。
しかもずっと練習していたセットアップがマッチポイントでキレイに決まれば嬉しくないはずがない。
もちろん改善点はあるけど。
自分含め、バレー部全員の気分が高揚している。
あぁ、号令は掛けないと。
「あかーし!!今のめっちゃいい!」
「そうですね、一旦整列しましょう」
興奮気味の木兎さんを促してネットを挟んだ相手チームに感謝を叫ぶ。
「「ありがとうございました!」」
お辞儀した状態から顔を上げると、入り口にAさんが立っていた。
「Aさん」
言ってから自分の迂闊さを後悔する。
彼女を見た瞬間、うっかり声に出てしまっていた。
「お、どうしたあかー……あ!Aー!」
木兎さんが叫んだ瞬間、体育館にいた殆どの人の視線がAさんに集中する。
「赤葦、だれ?あの子」
近くにいた木葉さんが少しきょとんとして言う。
木兎さん、声大きいです……
そう思うも、元凶は自分なのである。
ごめん、Aさん。
汗で濡れた額を手で拭いつつ周りに分からない程度にため息を吐きながら内心で激しく謝罪した。
ここ最近で一番のやらかしを赤葦は猛省した。
265人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
はるこん(プロフ) - 無気力なおバカさん» 恋愛と関係のないシーンなので入れるか迷っていたのですが、共感していただけてとても嬉しかったです!ペースは遅いですが、見捨てないで読んでいただければありがたいです笑 コメントありがとうございます! (2020年4月15日 19時) (レス) id: 99f376c927 (このIDを非表示/違反報告)
無気力なおバカ - 面白いです!!『文化祭の陰』のところの最後の「女子というのは恐ろしい」ってところものすごく共感します!!それと、赤葦くんやはりイケメンですねぇぇ。夢主ちゃんの性格もかわいくて素敵!!これからも更新頑張って下さい!!!!!! (2020年4月15日 2時) (レス) id: 9900cccf42 (このIDを非表示/違反報告)
はるこん(プロフ) - りんごあめさん» 一話書くのに時間がかかるタイプなので、内容を褒めていただけるのはとても嬉しいです!更新がんばります。 (2020年4月4日 10時) (レス) id: fde04c5d32 (このIDを非表示/違反報告)
りんごあめ - 初めて見ました!赤葦さがちゃんと残っていて、更に内容まで凝ってるだなんて!凄い技術ですね!これからも更新頑張ってください!楽しみにして待っています! (2020年4月1日 23時) (レス) id: e7faacb67c (このIDを非表示/違反報告)
はるこん(プロフ) - コメント嬉しいですーありがとうございます! (2020年3月27日 10時) (レス) id: fde04c5d32 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:はるこん | 作成日時:2015年12月7日 22時