【QK】取扱説明書【短編集】 (ページ5)

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弱ってる子 #sgi ページ5

"熱が、出ました。辛い"

金曜日の夜。
深夜、までは更けていないが、そろそろ飲み屋に酔っ払いが増えてきた時間。
彼女からのラインを受信した。

その一言と共に送られてきた画像には、38.3℃と表示されている体温計。
かなり高熱らしく心配になる。

軽く食事を済ませて帰宅したばかりの俺は再び家を出る支度をした。

飲み物やらゼリーやらを買い込んでAの部屋に着いたのはメッセージを受け取ってから1時間後だった。
チャイムを鳴らしてドアを開けてもらうとそこにはしんどそうな彼女。
鍵を開けてもらうのすら申し訳なくなるくらい辛そうだ。

「大丈夫？」

「大丈夫じゃない」

「だよな。ほら」

両手を広げれば俺の体にしがみつくA。
彼女を抱えるようにして寝室へ運ぶ。

「色々買ってきたけど何か飲む？」

「ん」

熱のせいかうっすら目に涙を浮かべる彼女。
熱った頬と相まってなんとも色っぽい。

買ってきたスポーツ飲料の蓋を開けて薬と一緒に渡してやるとごくごくと喉を鳴らして飲む。
その動く喉を思わず凝視してしまう。

「来てくれてありがと」

相当弱ってるのだろう、彼女が小さい声でつぶやいた。

「当たり前でしょ。頼ってくれて嬉しかった」

そう言って頭を撫でてやれば力なく笑みを浮かべた。
弱ってる彼女は可愛いし色っぽいがやっぱり可哀想で、早く治ってくれ、と願う。

「汗すごいな。ちょっとタオル取ってくるわ」

髪の毛が首や額にぺっとり張り付いているのに気付いて腰を上げようとすると腕を掴まれた。

「行かないで…！」

「え？」

「行かないで、ここで手繋いでて」

言いながら手を絡めてくるA。
普段はちょっと勝気で自信に溢れてる彼女のこの姿はなかなかレアだ。

「わかったわかった。ここにいるから。少し寝た方がいいんじゃない」

「ここにいる？」

「いるよ」

「どこにも行かない？」

「いかないよ、ずっといる」

握る手に力を込めれば安心しように笑って彼女は目を閉じた。

弱ると子供っぽくなっちゃうA。
こんな姿が見られるなら風邪も悪くないかも。
すでに寝息をたて始めたAの額にキスをする。

「おやすみ」