【QK】取扱説明書【短編集】 (ページ22)

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会いたかった子 #sgi ページ22

クリスマスイヴ。聖なる夜の前日。
今日はおしゃれなディナーを予約して、優雅にワインで乾杯して、しっとり愛を語り合って、幸せを染み込ませた身体で温もりの中眠りにつくはずだったのに。

彼との距離は約1万km。
同じ時間を共有することさえ許されない。
年内の仕事納めと同時に帰国して年越しまで久々の再会を喜び合うはずだったのに。

日本を離れて仕事をしている私は、彼とはいわゆる遠距離恋愛。パンデミックで飛行機が飛ばなくなり始めた頃に一時帰国するか迷ったが、以前からテレワークを導入していたおかげで仕事は普段どおり続いていたこともあって、現地に残ることにしたのだ。

結果、クリスマスにも飛行機に乗り込むことはなく、こうしてだらだらと映画を見る1日を過ごしている。

イヴだからといっても人類を脅かす敵はその猛威を奮っていおり、店はほとんどが営業停止しているため適当に作った昼食をとり終えてまた映画を観ようとしたその時。横に置いていたスマホが震えた。

「もしもし」

『もしもしA？』

「どうしたの。もう寝たと思った」

声の主は先ほどおやすみ、とメッセージを送った相手だった。

『クリスマスになったよ』

時間を見ると確かに日本では日付が変わる頃だった。
今この十数時間という差はどう足掻いても埋まるものではないことを改めて自覚する。

「本当だ。メリークリスマス」

『メリクリ。ナイスガイなサンタからプレゼントだよ。画面オンにして』

耳から離して画面をタップすると一瞬暗くなった画面に愛しい人の姿が現れた。
もうしばらく会っていないその姿にに思わず涙がこみ上げてくる。

『どう？似合ってる？』

赤い帽子をかぶってみせて、嬉しそうに笑う彼。
ああ、会いたかった。思い切り抱きしめて欲しかった。

「似合ってるよ」

そう言った言葉はどうしても震えてしまった。

『A、来年は絶対一緒に過ごそうな。』

その優しい声に堪えていたものが堰を切ったように溢れてしまって止まらない。
でもそのことには触れずに彼は優しく続けた。

『逆にさ、これから一生一緒に過ごすことになるんだから離れて過ごすなんて今年で最後かもよ。いい思い出じゃん』

「それ、どういう意味かわかってんの？」

『わかってる。今更Aをどっかにやる気はないから』

彼らしいちょっとだけ乱暴な語尾に頬が緩む。
きっと彼のことだからちゃんと考えてくれていることは分かる。

「駿貴、」

『ん？』

「ありがとね。愛してるよ」

『俺も愛してるよ』