第四幕「仮面の裏は、神か悪魔か」 ページ9
ブロンドの髪の少年───グルッペン・フューラーは、向かいに座る女をじっと見詰めていた。
ガタゴトと揺れる車の中で、女はぼんやりと窓の外を眺めている。
一目で高級品とわかる純白のローブに、銀の飾り爪がついた手袋。
悪魔の化身とも言われる、黒山羊を模した艶のある仮面には、立派な角と血のような宝石の装飾が施されている。
それとは真逆に、血の一滴も流れていないような白い肌。淡い菫色の紅を塗った、薄い唇がゆるりと開く。
『……そんなに見詰められると、気が休まらないんだが?』
「!」
仮面の奥の、暗い色の瞳がちろりと揺れて、グルッペンの方へ向けられた。
びくり、と思わず肩が跳ねる。
何か言わなければ、と、乾いた唇を軽く舐め、グルッペンは小さく息を吸い込んだ。
「あ……その、何故、俺の話を……聞いてくださったのか、と……」
掠れた声で問いかける。
視線を自分の隣に向けると、真っ赤に泣き腫らした目を閉じて眠る、2人の少年の姿が目に入った。
あのとき、あの地獄のような場所で、グルッペンは目の前の女に、しっかりと目を合わせてこう言った。
「俺と取引をしてくれないか」
と。
正直、どう転ぶかもわからない、賭けにもならない賭けだった。
だが、この女はそれに乗ったのだ。苦々しい顔で、何故か隣の男───道化師を睨んでいたけれど。
「この2人を、俺と同じように買ってはもらえないだろうか」
『何故?これを買って、私に何の得がある?』
「そ、れは」
貴方の望むことを何でもしよう、と、そう言ったところで何の意味もない。何故ならグルッペンという少年は、既にこの女の所有物なのだから。
所有物となった人間に、選択権などあろうはずがないのだから。
だからグルッペンはこう言った。
「この2人と共に居られないのなら……舌を噛み千切って死ぬ覚悟だ」
自分に10億もの金を注ぎ込んだ女だ。決して死なせるような真似はしないだろう。
そう考えてのことだったが、女はちょっと顔を顰めると、隣の道化師に問いかけた。
『この場合はどうなる?』
「どうって?もう商品の引き渡しは済んでるからね、こちらの責任にはならないと思うけど」
『あぁそう……』
結局は小切手を切りながら、女が深い溜息を吐いて言う。
『クラウン……本当に君は趣味が悪いな』
───ここまで全部が、君の舞台だったのだろう?
あの場所で、道化師だけが終始、満足げに笑っていた。
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シディア - わぁ!!!いなくなってた間にまた面白そうな作品が!!!他の作品も含めて続き楽しみにしています! (2022年1月10日 14時) (レス) id: 939d5c7779 (このIDを非表示/違反報告)
よなが(プロフ) - 暇なふぁいるさん» 気に入っていただけたようで嬉しいです。ありがとうございます! (2021年11月23日 13時) (レス) @page7 id: 58d4b2eb6a (このIDを非表示/違反報告)
暇なふぁいる(プロフ) - クラウンめっちゃ好みのキャラです!これからも読ませていただきます (2021年11月23日 12時) (レス) @page6 id: 115c38c07a (このIDを非表示/違反報告)
よなが(プロフ) - 暇なふぁいるさん» フラグ付いてるの今気付きました!外したと思ってたんですけど……すみません!ご忠告くださった皆様、ありがとうございます!申し訳ありませんでした!!! (2021年11月23日 10時) (レス) id: 58d4b2eb6a (このIDを非表示/違反報告)
暇なふぁいる(プロフ) - フラグついてますよ!! (2021年11月23日 9時) (レス) @page5 id: 115c38c07a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:よなが | 作成日時:2021年11月22日 3時