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キィ、と軋んだ音を立て、決して広くない扉が開く。
呼んでも動かない檻の中の少年に、道化師は乾いた笑いを零して、その細い腕と首に繋がる鎖をぐいと引いた。
「……ッ!」
苦しげな息が薄い唇の隙間から漏れ、少年の、形の良い眉が醜く歪む。
半ば引き摺られるように檻から出た少年に、魔女は溜息を吐きつつ、仮面の奥の目を向けた。
『クラウン……乱暴はよせと言ったろう』
「それはごめんよ。でも、こうでもしないと動かないんだもの」
錆びた鎖を手渡して、道化師はやれやれと肩を竦める。
魔女が軽く鎖を引くと、少年は軽く抵抗したものの、大人しく1歩前に出た。道化師は納得いかないというように、口元をほんの少しだけ歪める。
「なんで君の言うことは聞くのかねェ」
『言ってない。鎖を引いただけ』
「さっき僕メチャクチャ抵抗されたんですけどォ?」
『それを私に言われても困る。それより、問題ないようなら帰りたいんだが?』
頭が痛いんだ、と仮面を叩く。
道化師はまだ不満があるようだったが、魔女が言うならと、ランタンを揺らして踵を返した。
カラン、コツン、ジャラリ。
灯りが揺れて、足音が響き、長い鎖が音を立てる。
絶えず聞こえる、悲鳴に奇声に恨言。
道化師は笑顔で、魔女は顔を顰めて、少年は唇を噛んで、鉄格子に囲まれた通路を進む。
出口までもう少し、というところで、魔女の身体がガクンと後ろに傾いた。
『……ッ』
「うわ、大丈夫かい?危ないなァ……」
倒れる前にそれを支え、道化師が後ろを覗き込む。
ピンと張った鎖の先には、通路の真ん中で立ち止まった少年。ほとんど表情を変えることのなかった彼が、今は目を大きく見開いて、真っ青な顔で檻のひとつを見詰めている。
「あァ……成程ネ。ごめんよ、ちょっと待っていておくれ」
道化師は
「困るんだヨ、もう買い手がついたんだ。引き止めないでくれる?」
魔女の手から抜き取った鎖を、グッと強く引き寄せる。
「!」
「待って、嫌や、連れてかんといて!」
「行かんといてよぉ!」
少年を引き止めていたのは、檻から伸びた細い腕。
縋るように、決して離すまいと言うように、少年のシャツを握り締め、異国の言葉で泣き叫ぶ。
「だから迷惑なんだって」
道化師が容赦なくその手を叩く。
少年は奥歯を噛み締めると、魔女の目をしっかりと見据えて口を開いた。
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シディア - わぁ!!!いなくなってた間にまた面白そうな作品が!!!他の作品も含めて続き楽しみにしています! (2022年1月10日 14時) (レス) id: 939d5c7779 (このIDを非表示/違反報告)
よなが(プロフ) - 暇なふぁいるさん» 気に入っていただけたようで嬉しいです。ありがとうございます! (2021年11月23日 13時) (レス) @page7 id: 58d4b2eb6a (このIDを非表示/違反報告)
暇なふぁいる(プロフ) - クラウンめっちゃ好みのキャラです!これからも読ませていただきます (2021年11月23日 12時) (レス) @page6 id: 115c38c07a (このIDを非表示/違反報告)
よなが(プロフ) - 暇なふぁいるさん» フラグ付いてるの今気付きました!外したと思ってたんですけど……すみません!ご忠告くださった皆様、ありがとうございます!申し訳ありませんでした!!! (2021年11月23日 10時) (レス) id: 58d4b2eb6a (このIDを非表示/違反報告)
暇なふぁいる(プロフ) - フラグついてますよ!! (2021年11月23日 9時) (レス) @page5 id: 115c38c07a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:よなが | 作成日時:2021年11月22日 3時