山麓の湯煙 ページ42
『お、ぬるめでいい感じだ』
やや赤みがかったお湯は、柔らかくて手触りが良い。
湯船の縁に座りながら湯加減を確かめていると、どこかの部屋から木の軋む音が聞こえてきた。
「くあ!」
『あ、ちょっとポチさん声量が!もしクラピカだったら…』
「A?」
あちゃー。しばらくクラピカのお風呂覗いてから声かけようと思ったのにな。流石ポチさん目敏いわ
「……隣か。なぜそこにいるのかは知らないが。別に、温泉に入ることを怒ったわけではないからな」
あ、ここ隣なんだ。確かに声が近いし、柵で目隠しはされているものの、右隣から上がる湯気が山々の景色に消えていくのが見える。良かった、隣の隣の隣とかじゃなくて。
『せっかくだし、同じ景色見て入りたいなって』
「ついでに普段話せない身の上話も語り合って私の憂いの理由を知りたい。といったところかな」
『どわっと!……な、なんだって冴えてるねクラピカ君』
やたらと的確で冷静な声が返ってきて、脱いだ服を思わず浴槽に落としてしまった。ぱしゃっと水の音がして、飛沫が飛んでくる。
「別に嫌ではないよ。というか湯船に何か落としたのか?」
『ちょっとね。ま、平気よ』
湯の上に浮かぶ衣服を取って、暖かい浴槽に身体を沈める。明日着るのはスーツ…いや、私服でもいいんだっけか。持ってきた服から適当に選ぼう
「身の上話といっても、私から話すことは特にない。私の身の上話を語ることができるのは…」
ボソボソと話し始めたクラピカが、ふと言葉をとめる。
恐らく、クルタ族のことだろう。クラピカの生い立ちは、全て部族の因縁で出来上がってるといってもおかしくないのかもしれない。
しばらくの沈黙が流れて、辺りは白い湯気で満たされていく。山麓の冷えた風が頬に当たって通り抜けていった。
『ね、私の身の上話も聞いてよ』
「…ぜひ、聞きたい」
自然と、口が開いた。私はこれから彼について知ろうとしているのだから。同じように知ってもらうべきだ
『私ね、自分が人間じゃないって気が付いたのは、15の時だったんだ』
「獣化に気づいた年齢ということか?」
『いや、小さな頃からこの獣人の血は理解してたの』
「それでは、なぜそのような…」
『普通の人と自分が違うことに気が付いた』
心地よい硫黄の香りは、私の古い記憶を閉じてしまうようにゆらゆらと揺れる。少しだけ、頭が痛かった
___
『外からクラピカを覗いている輩がいれば通報しよう。ええ、棚上げ女ですよ私は』
205人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
shela(プロフ) - はにゃ?さん» コメントありがとうございます!読みやすさ重視で頑張っていたのでとても嬉しいです〜応援ありがとうございます、これからも頑張ります!! (2023年2月10日 18時) (レス) id: 9d22579331 (このIDを非表示/違反報告)
はにゃ? - とても読みやすいです。これからも応援してます。 (2023年2月10日 8時) (レス) id: ef6fdebb20 (このIDを非表示/違反報告)
shela(プロフ) - アクアクさん» コメントありがとうございます〜!読者様の求めている作品に一致しているだなんて、本当に光栄です!!必ず続きを書きますので、これからも社畜少女にお付き合いいただければ嬉しいです!作品を読んでいただき、ありがとうございました! (2023年1月4日 17時) (レス) id: 9d22579331 (このIDを非表示/違反報告)
アクアク(プロフ) - これぞ私が求めていた作品そのもの!!続き待ってます!!!! (2023年1月4日 8時) (レス) @page45 id: 2730d44706 (このIDを非表示/違反報告)
shela(プロフ) - レーナさん» 読んでくださって、そしてコメントまでありがとうございます!お褒めのお言葉いただき嬉しいです!嬉しすぎますっ!!ネタやテンポ、力を入れているところなのでそう言ってもらえて本当にもう…!お気遣いありがとうございます、これからも頑張りますっ! (2022年4月2日 8時) (レス) id: 9d22579331 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:shela | 作成日時:2021年12月28日 19時