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「Aちゃんってさ、」
佐久間さんがこねてくれたハンバーグを焼いてる間、じゅーじゅーと音を立てるそれを見ながらぼーっとしていれば、不意に聞こえた声。
その声に顔をあげれば、キッチン台に肘をついて頬杖を付きながらこっちを見てる佐久間さんがいた。
「料理するのすごい上手だよね」
『え、そうですか?』
「うん、すっごい美味しい。誰かに習ったりしたの?」
彼は屈託のない笑みを浮かべながら、頬杖をついたままそう聞いた。
私は焼き目のついたハンバーグをひっくり返したあと、言葉を紡ぐ。
『いや、自分で勉強しました』
「へぇー、そっかぁ。じゃあなんで料理の勉強しようと思ったの?」
その質問に、私は一瞬開きかけた口を閉じた。
………なんで、か。
初めて自分で料理をしようと思ったのは、たしか中学生くらいになった時だったっけ。
それまではお手伝いさんに作ってもらっていたけど、その頃から少しずつ自分で作るようになっていた。
その理由は、───ただひとつだ。
『食べて欲しい人がいて、…その人に、喜んでもらえるかなって、』
「食べて欲しい人?」
私の答えに、佐久間さんはどういうこと?というように首を傾げた。
…どこまで話したらいいんだろう。お兄ちゃんに食べて欲しかったっていうだけなら、普通からして変ではないのかな?…それともやっぱりおかしい?
ぐらりと心の中に現れた靄。思いがけずお兄ちゃんのことを思い出して、胸がちょっと苦しい。
頭の中で返答に悩んでいれば、「あ!Aちゃんお肉!」という佐久間さんの声に現実に引き戻された。
『わ、やば、』
目を離していた隙にすっかり焼き目のついていたフライパンの中のハンバーグを、慌ててひっくり返す。
焦げ目は、…よかった、ギリギリついてない。
ほっと胸を撫で下ろすと、佐久間さんはそんな私を見て笑みを浮かべる。
「おー、ちょうどいいくらいだったね」
『佐久間さんが言ってくれなかったら焦がしてるところでした』
「へへ、やった!佐久間もちょっとは役に立ったってことだね」
その言葉に、ちょっとじゃなくていつもすごく助けてもらってるのにな、と思いながら。
「よし、じゃあ次は俺が焼いてみる!」と腕まくりをして残りの2つのハンバーグを焼き始めた佐久間さんに頷いた。
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彩花(プロフ) - 初めまして!私は渡辺派なので少しでも絡みのある回を見ると勝手に微笑んでしまってます笑 続編楽しみにしてます! (2023年4月10日 0時) (レス) id: 7fda05ffd5 (このIDを非表示/違反報告)
こゆき(プロフ) - 咲里以さん» ジリジリすぎて大丈夫かな?と思っていたので、そのように言っていただけて安心しました、!ありがとうございます、頑張ります! (2022年6月29日 17時) (レス) id: 1ae247aadb (このIDを非表示/違反報告)
こゆき(プロフ) - ここあさん» 更新遅くて申し訳ないです、、そう言っていただけて嬉しいです、! (2022年6月29日 17時) (レス) @page36 id: 1ae247aadb (このIDを非表示/違反報告)
咲里以 - 初めまして!ジリジリ進んでるような違うような…ムズムズきゅんしています。続き楽しみにしているので、主様の無理ない範囲で更新待っています! (2022年4月13日 2時) (レス) @page34 id: d6172fab00 (このIDを非表示/違反報告)
ここあ - 続きがすごく見たくなりました!! (2022年4月1日 2時) (レス) id: 5e0c35ed0e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こゆき | 作成日時:2020年12月1日 20時