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ふと、Aの視線がわずかに動き、こちらを向いた。雷蔵はその瞳と正面から目が合った。
透明感のある彼女の黒い瞳は、まるで深い湖面のようだった。雷蔵の胸が高鳴る。
どうしよう、行くべきか、いや、それとも＿＿
いつもの迷いがまた襲ってくる。
だが、Aはそのまま視線を逸らさなかった。まるで、ほんの少し待っているような気さえした。
雷蔵は迷った末に、決意を固めるように深く息を吸い、Aの席へと歩み出した。
その瞬間、八左ヱ門の表情に微かな変化が生まれた。Aの視線が自分ではなく雷蔵に向いていることに気づいたのだ。胸の奥にわずかなモヤモヤが広がる。
なんでだ？
さっきまで自分が話していたのに。自分にだけ向いていたはずのその穏やかな視線が、いつの間にか雷蔵の方へと向いている。それに気づいた八左ヱ門は、何とも言えない感情を抱えながら、二人を見つめた。
雷蔵がAの前に立ち、何か言葉をかけた。Aはわずかに微笑んでいるようにも見える。八左ヱ門はその小さな変化を見逃さなかった。
八左ヱ門「(何があったんだ？)」
昨日の午後の夫婦実習でペアになっていた二人。その時に何かあったのだろうか。いつも穏やかで控えめな雷蔵が、こうして彼女に話しかけるなんて、少し意外だった。
俺が先に見つけたのに。
八左ヱ門の心に黒い影が少しだけ滲んだ。
彼女と初めて話したのは自分だった。
最初に心を開いた相手も自分だったはずだ。
…彼女の心を聞かないとわかんないけど。
忍術学園での初めての会話、それは今でも鮮明に残っている。最近は彼女と話すことも多くなり、何か特別なものを感じていた。
＿＿俺が最初に仲良くなったのに。
自分の中に湧き上がるその感情が"嫉妬"だということに、八左ヱ門は気づかないふりをした。
ただ、その黒い影を必死に押し込める。
八左ヱ門「(いや、こんなこと考えちゃダメだろ。Aさんだってみんなと仲良くしたいだろうし)」
それでも、雷蔵と彼女の小さな会話が続いていくのを見ていると、胸の奥が締め付けられるような感覚が消えなかった。
八左ヱ門は大きく息を吸い込んで、自分に言い聞かせるように微笑んだ。そして、二人の会話に割って入ろうと歩み出す。
八左ヱ門「俺の知らない間にもっと仲良くなってたんだな」
それが八左ヱ門にできる精一杯だった。
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作者名：＋1
| 作成日時：2025年2月4日 18時
