第12話「戦いの幕開け」 ページ15
「…いた」
空間の出口1歩手前から外の景色をみる。
惨状な光景だった。家屋は全て焼け倒れ、隠れる場所も何もない。報告通り既に何十人もの血が流れている。一方で相手の勢いは留まるところを知らない。
空間は空に出ていて、全体を見渡すことが出来た。
「…よし、行くぞ！！！」
フエゴレオンの声で皆が動いた。
するとAは、四方八方に散った魔の中に、ひとつ動いていないものがあることに気づく。
「…」
ノゼルだった。水銀を出して、今にでも戦いの場に降りれる状態。その状態でAをじっとみている。
「空間保つのも魔使うから早く」
行ってくれ。
最後まで言わせろっての。
Aの首もとには、少しの光を受けて美しく輝く水銀があり、それは鋭い槍状のものになっていた。あとほんの1、2�僂如�Aの首に当たるであろうところに。
いや別に言おうと思えば言えた。ただ、そこまで空気を読まないわけじゃない、というだけだ。
「…私は王族だ。敬語を使え、異邦人」
王族とか言うと尚更敬語使わねーぞ俺。
「堅苦しいのは嫌いだ」
その答えによほど苛ついたのか、水銀の槍が首に少し当たった。王族とでも言えば、誰しも従うと思ってんのかね。やっぱ逃げとくんだった。
つぅ、とAの首に一筋の赤い線ができる。止まる気配はない。薄く切られた傷口から、少量ながらも止めどなく血が流れていく。
それでも、Aは微動だにしない。ずっと前を見続けているが、ノゼルにはその瞳が何を映しているのかわからなかった。
「貴様、恐怖すら感じないのか」
「あんたには、面倒という感情もないらしいな」
ノゼルは、この者が不可解で仕方なかった。実の弟や妹でも自分に話しかけようとしない。それなのにコイツは恐怖の目も向けず、敬語のひとつも使わない。
「…時間の無駄だったな」
そう言ってノゼルは地上に降り立つ。羽のようにひらひらしたものがついたローブを翻して。その姿はまるで天使のようだった。
「天使、なぁ」
じゃあ俺は、その天使に唯一反抗する元天使…いや、
悪魔だな。
Aはノゼルに続き、自分が作った空間を消すと同時に飛び出し、
地上に降りた。
さぁ、戦いがはじまる。
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作者名：ミヤビ | 作成日時：2018年8月28日 20時
