笑顔の仮面は知っている2【探偵チームKZ事件ノート】 (ページ31)

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第78話『いいニュース』ページ31

杏奈side

「KZの監督が、俺に戻ってきてくれって言ってきた」

すごい！

「トップ下に復帰したの？」

小塚くんが聞くと、若武くんは首を横に振った。

「いや、サイドハーフ」

上杉くんが驚いたような声を上げる。

「それ、お前が怒って蹴ったポジションじゃん」

私はびっくり。

それなのにどうして。

「なんで今更、それでオーケイなんだ」

若武くんはゆっくりと顔を上げて、天井を仰いだ。

「今まで俺、自分を、自分のイメージに合わせようとしてきた気がする。たまには他のイメージに合わせてもいいかなって。そういう感覚でやったら、自分の違う面が出てきて、よりパワーアップできるのかもしれないって思えたから」

若武くん、かっこいい・・・！

「じゃ探偵チームKZにも、戻るよね？」

小塚くんが言うと、若武くんはちょっと笑って親指で自分を指した。

「俺以外に、リーダー適任者って、いねーだろ？」

若武くんらしい。

「皆、そろってる？」

声とともに黒木くんがドアから姿を見せた。

「いいニュースだ。ほら」

差し出された黒いスマホの画面にこういうメールが浮かんでいた。

「かなり元気になったよ。来週には退院できるかもしれない。美門翼」

私たちは顔を見合わせ、ハイタッチして、その手をぎゅっと握りあった。

「何もかもうまくいったね」

小塚君が嬉しそうに言い、彩ちゃんが力を込めてうなずいた。

「やっとハッピーエンドだね」

彩ちゃんの言葉に、黒木くんが首を横に振る。

「いや、まだ明日の予選がある」

私たちはいっせいに若武くんに目を向けた。

すると、若武くんがおずおずと口を開いた。

「そのことだけど、さっき監督と明日はKZの試合に出るって約束したんだ。時間が、ダンスの予選と重なってる。どっちかっていったら」

若武くんは、自分の衣装を見下ろす。

「これで出たくない。カッコ悪すぎる」

上杉くんが腕をのばし、若武くんの頭を抱えこんで締め上げた。

「『コッペリア』から曲を取るっていうから、こっちもバレエのイメージでデザインしたんだ。『牧神の午後』の主役のスタイルだぞ。何の文句があるんだ。ありがたく出場しろ」

小塚くんが困ったような顔で彩ちゃんを見た。

「若武、どうするんだろ」

彩ちゃんは眉をあげる。

「さぁ」

黒木くんがクスッと笑った。

「俺たちの目的は、全て達成されたよ。若武はKZに戻ったし、これまでの自分の限界を超えようとしている。美門は回復に向かってるし、感染は防げた」