第70話『理解』 ページ23
杏奈side
「スリーブっていうのは」
若武くんに代わって、黒木くんが口を切った。
「設計図をもとにして施工図を作る時に書き入れるものなんだ。恐らくその時、技術者が書き間違えたんだね。不要なスリーブを3本を書き入れてしまったんだ。現場の人間は、その施工図通りに作っていくから、その結果は庭にスリーブが通ってしまって穴が三つ開いた」
ふむふむ。
「ここのビル工事は子会社や下請けを出さずに、すべて大々陸建設が直接やっている。庭に間違ったスリーブが通っているという情報はすぐ伝わっただろう。だが、やり直すためには鉄骨部分までむき出しにしなければならない。1年以上かかるし、費用も膨大。それに、会社の信用に関わる。それでスリーブの口を塞いだだけでごまかそうとしたんだ。自分の同期生だった東西関東建設の青池浩太を使ってね」
なるほど。
そうだったんだ。
「青池が加藤に頼まれて、この穴を塞いだのは、昨日だ。猫は、美門が見つけた1週間前から管の中を行き来してたんじゃないかな。青池が管を塞いだ時には、庭に出ていた」
美門くんが猫が見つからないって言ってた時は、きっと管の中にいたんだ。
大々陸建設の設計室勤務で、今月命を絶った技術者は、その間違いに関わっていたのかもしれないと黒木くんが言った。
「もしそうだとすると、社内で相当厳しく追及されただろうし、退職せざるをえなくなっていただろう。もちろん自分の責任を感じていたに決まってるし」
大人って大変だ。
「スリーブって、つまり空間だろ」
上杉くんが、すっかり眠気の覚めた顔で言った。
「間違った設計図に基づいて建てられた建物って、いずれ耐久性に問題が出るんじゃね?」
そうだよね。
「要するに、」
若武くんがニヤリと笑う。
「これは、テレビの出番だ。すぐテレビ局に売りこもう」
え!
黒木くんが皮肉な笑みを浮かべる。
「残念だな、若武先生。この時間じゃテレビ局に行ってもまともに取り合ってもらえないよ。それで明日になったら、ここには国立感染症研究所の調査が入るんだ。スリーブも当然発見されてニュースになる。俺たちがさっき壊してるから見つけやすいしね」
若武くんは、両手をテーブルにたたきつけた。
「またかっ!またダメなのか。いつもいつも、どーしてこうなんだっ!?」
あ、いつもこうなんだ。
私は苦笑して若武くんを見た。
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桜@ひなた - 落ちは、翼がいいと思います! (2023年2月19日 18時) (レス) @page4 id: fb711c9d23 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - オチは、翼か黒木くんがいいです!推しなので・・ (2022年2月27日 8時) (レス) @page3 id: 8e64252870 (このIDを非表示/違反報告)
Snow(プロフ) - オチは翼がいいです!! (2021年3月19日 12時) (レス) id: 1bc28cf27b (このIDを非表示/違反報告)
マカロンY - 320526 オチは翼 (2021年3月4日 21時) (レス) id: 23d1cff2e4 (このIDを非表示/違反報告)
bigaru(プロフ) - 落ちは翼希望です!翼落ちのお話が少ないので・・・ (2020年7月29日 19時) (レス) id: 4e79474d44 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:澪 | 作成日時:2020年6月17日 0時