16.ジェラシス ページ17
▽▲▽
『ごめんね、お待たせ』
「大して待ってないよ」
彼女の肩から黒いスクバを持ち上げて、
坂道を校舎とは逆方向へ降りていく。
僕の肩には2つのカバン、
Aの両手にはトランペットケース。
角にはめられた銀色の金具が夕日を反射して、
なんとも言えない明るい色に煌めいた。
『…電車、今日も多いよね』
「そうだね、この時間はラッシュだし」
ICカードを駅の改札に押しつけて、
開いたゲートの先にあるホームへ向かう。
学校の最寄り駅の回りは特に何もないからホームは閑散としていたけれど、滑り込んできた電車の中は人、人、人。
思わずためらうAの片手を引いて、
人が降りて空いたスペースに何とか乗り込んだ。
「…無理に乗っちゃったけど、楽器大丈夫？」
『楽器は大丈夫だけど、無一郎くんが…』
「僕は大丈夫」
閉まったドアにピッタリついたAに覆い被さる形で壁に手をつき、電車が揺れる度に起こる人の波からAを守る。
もはや帰る時の恒例行事と化したこの状況で、
僕は思わず苦笑いを浮かべた。
『無一郎くん…？』
「掴まってなよ、とどかないんでしょ？吊革」
ドア近くの吊革は少し位置が高いから、
Aの身長では少しだけ足りない。
かと言って体の向きを変えて手すりを掴めるほど自由は効かないし、さっきからAは揺れる度につまづきそうになっていた。
『えっ…と……』
「服でも袖でも何でもいいよ」
『う、うん』
遠慮がちに僕のシャツの裾を掴んだA。
髪で顔は隠れて見えないけど、
チラッと見えた耳は真っ赤に染まっていた。
まぁ、きっと僕も人のことばかり言えないな。
【左側のドアが開きます】
次の駅に停まるとすぐに向こう側のドアから人が雪崩れ込んできた。
この駅はオフィス街にも近く、帰宅を急ぐサラリーマンらしき人が車内に増えている。
だけど勿論降りる人はほぼいないから、
人の密度は跳ね上がる一方だった。
「…っと、ごめん……」
『う、ううん』
背中を押す力が強くなってきて、
思わずAの方へよろけてしまった。
その一瞬、顔の距離が近くなる。
もう少し近づけたら顔がぶつかるんじゃないかと思うほど。
『きょ、今日は人が特に多いね』
「もう月末だし…金曜日だからかな」
パッと顔を逸らしてそう言うAに適当な相づちを打ち、ドアの外の景色を眺める。
本当、心臓に悪いな。
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指切り(物理) - 素敵な作品ありがとうございます(*- -)(*_ _)ﾍﾟｺﾘ。いやぁホントに神すぎます！ (2022年4月5日 10時) (
レス) @page25 id: dfc5bee49e (このIDを非表示/違反報告)
さつむいこん(プロフ) - ぱらさん» 全部の言葉が光栄でしかないです、めっちゃ幸せです…!!こちらこそありがとうございます🙇♀️ (2021年11月11日 17時) (レス) @page24 id: 423a130570 (このIDを非表示/違反報告)
ぱら - 楽しく読ませて頂きました！一個一個の言葉が胸に染みました…！素晴らしい作品をありがとうございます！！ (2021年11月8日 17時) (レス) id: 1cfc9a3f72 (このIDを非表示/違反報告)
さつむいこん(プロフ) - ﾐﾕﾓﾝさん» わあぁありがとうございます光栄です…っ!!のんびり更新ですがどうぞお付き合いください🙇🏻♀️ (2021年10月28日 23時) (レス) @page11 id: dc07c220d6 (このIDを非表示/違反報告)
ﾐﾕﾓﾝ(プロフ) - 言葉の使い回しがすごく好みです…更新頑張ってください🙌✨ (2021年10月28日 20時) (レス) id: 2ad0dd50d0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さつむいこん | 作成日時：2021年10月7日 23時
