15.天ノ弱 ページ16
▽▲▽
あの時僕はどんな言葉をかけたっけ。
泣いていたあの子の頭を抱き寄せて、
言いたいことの全部を伝えたんだ。
昔のやり方が今のこの子に通用するかは分からないけど、何か変わるかもしれない。
「僕の父さんも剣道してるけど、僕の試合は見に来たことないよ。泣いちゃいそうで怖いんだってさ」
『…泣く?』
「感動するからって。親バカ的な感じかな。
そんな大げさなもんじゃないと思うけど、Aのお父さんもそうなのかもしれないよ」
事実、昔の君のお父さんはそうだった。
君に生きてほしい一心で冷たく接してすれ違い続けた結果、君が先に死んでしまったんだ。
僕は君が死んでからのお父さんの様子を見たことはないけど、悲しみは相当なものだったはずだ。
何も温かく包み込むことだけが優しさじゃない。
冷たく突き放すことだって、時には愛情が詰まってるんだ。
『そうかな…』
「僕はそう思うよ」
だって兄さんがそうだったから。
そっと抱き寄せた頭は小さくて、
僕の胸にすっぽりと収まってしまった。
男女の差からして当たり前のことだけど、
それすらも僕には切ない要素にしかならないんだ。
ふんわり香るシャンプーの香りと少し汗ばんだ首筋に、脳髄がくらりとくる感覚に襲われる。
でも、僕に手を出す資格なんて更々ないから。
「少なくとも、僕はすごく楽しみにしてる」
『…うん、ありがとう』
好きな子を抱き締めたまま何もできないなんて状況、男からしたらただの生き地獄。
だけど僕は充分幸せだった。
彼女に何かあった時、こうしてあげられることが今の僕には保証されていたから。
あの世界でできなかったことが、今はできる。
霞柱として最期を迎えることもないし、
彼女が炎を纏って殉死することもない。
ずっとずっと、平和な世界の中で生きられる。
だからチャンスだって山ほどあるんだ。
「もう遅いし、今日は帰ろ」
『うん』
日が暮れた街を2人で歩ける。
のんびり喋りながら家まで送ってあげられる。
あの頃は欲しくても手に入らなかった日常が、
今は当たり前のようにここにある。
だから、いいんだ。君は知らなくても。
何も知らないまま幸せに生きてほしいから。
君が"最後の炎柱"だったってことも、
とある柱と恋仲になってたことも、
全部知らないままでいい。
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指切り(物理) - 素敵な作品ありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ。いやぁホントに神すぎます! (2022年4月5日 10時) (レス) @page25 id: dfc5bee49e (このIDを非表示/違反報告)
さつむいこん(プロフ) - ぱらさん» 全部の言葉が光栄でしかないです、めっちゃ幸せです…!!こちらこそありがとうございます🙇♀️ (2021年11月11日 17時) (レス) @page24 id: 423a130570 (このIDを非表示/違反報告)
ぱら - 楽しく読ませて頂きました!一個一個の言葉が胸に染みました…!素晴らしい作品をありがとうございます!! (2021年11月8日 17時) (レス) id: 1cfc9a3f72 (このIDを非表示/違反報告)
さつむいこん(プロフ) - ミユモンさん» わあぁありがとうございます光栄です…っ!!のんびり更新ですがどうぞお付き合いください🙇🏻♀️ (2021年10月28日 23時) (レス) @page11 id: dc07c220d6 (このIDを非表示/違反報告)
ミユモン(プロフ) - 言葉の使い回しがすごく好みです…更新頑張ってください🙌✨ (2021年10月28日 20時) (レス) id: 2ad0dd50d0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さつむいこん | 作成日時:2021年10月7日 23時