13.恋色に咲け ページ14
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坂道を下って振り返ると、既にAは楽譜に夢中で僕のことは眼中にもなかった。
何度も繰り返される同じパッセージを背中越しに聴きながら、僕も道場へ向かう。
きたる全国大会を前にして、
先輩達は特にピリついているようだった。
今年の1年はあまり評判が良くないらしいから仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。
事実、地区大会で勝ち上がれた1年が僕しかいなかったんだから。
「まぁアンタの前世は立派な霞柱だもんな」
「大きい声で言わないで下さいよ面倒だから」
「あの時透無一郎に敬語使わせてることが未だに慣れねぇわ俺」
「それは分かるなぁ…、時透くんはやっぱり"柱"で別格なんだよな」
「別に…、部活以外は敬語使ってないですし」
転生した今では君達の方が剣道も上手いし、
特に意識することは何もないと思うんだけど。
なんならAの方が特殊でしょ。
刀とは縁のないもので登り詰めてるんだから。
「時透くん、祭りはどうだったんだ?」
「…僕は色々思い出しましたけど、あの子はたぶん特に何も」
「Aちゃん、まだ思い出さねぇのか…」
「まぁ、あんな記憶ない方が幸せでしょうし」
大切な人を亡くしたこと、
命を懸けて異形の生き物と戦っていたこと、
お世辞にも幸せとは言えない過去があの子には沢山あった。
たとえ僕のことが記憶に残っていなくても、
全部忘れたままでいい。
もう泣かせたくないし、幸せに生きてほしい。
今のあの子は過去に囚われない新しい人生を歩んでいるんだから、邪魔することは許されない。
「でも、諦めるわけじゃないんで」
昔の僕を思い出してもらえないなら、
今の僕を好きになってもらえばいい。
現世を生きる、過去とは別人の"時透無一郎 "を好きになってもらえばいいだけなんだ。
「あー…、じゃあさ、これやるよ」
「…これ、全国コンクールのチケットじゃないですか」
「禰豆子ちゃん見に行こうと思ってたんだけどな、予定入っちゃった」
「いいんですか?チケット獲得倍率ってめちゃくちゃ高いですよね」
「いーの、持ってたって無駄にするだけだし。それに禰豆子ちゃんも1年だから来年も出るだろ」
「…じゃ、お言葉に甘えて」
開催地はここから遠い県にあるコンサートホールだけど、バイトのお金も貯まったし、見に行ってみようかな。
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指切り(物理) - 素敵な作品ありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ。いやぁホントに神すぎます! (2022年4月5日 10時) (レス) @page25 id: dfc5bee49e (このIDを非表示/違反報告)
さつむいこん(プロフ) - ぱらさん» 全部の言葉が光栄でしかないです、めっちゃ幸せです…!!こちらこそありがとうございます🙇♀️ (2021年11月11日 17時) (レス) @page24 id: 423a130570 (このIDを非表示/違反報告)
ぱら - 楽しく読ませて頂きました!一個一個の言葉が胸に染みました…!素晴らしい作品をありがとうございます!! (2021年11月8日 17時) (レス) id: 1cfc9a3f72 (このIDを非表示/違反報告)
さつむいこん(プロフ) - ミユモンさん» わあぁありがとうございます光栄です…っ!!のんびり更新ですがどうぞお付き合いください🙇🏻♀️ (2021年10月28日 23時) (レス) @page11 id: dc07c220d6 (このIDを非表示/違反報告)
ミユモン(プロフ) - 言葉の使い回しがすごく好みです…更新頑張ってください🙌✨ (2021年10月28日 20時) (レス) id: 2ad0dd50d0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さつむいこん | 作成日時:2021年10月7日 23時