10.愛してる ページ11
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不思議に思って彼女の顔を覗き込むと、Aは顔を赤く染めながらかすれ声で言った。
『ほんとはね、私があげたかったの』
「僕に?どうして?」
『……おそろい、になるなぁって思って』
首に掛けたタオルの端で口元を隠し、
目を逸らしながらそう告げたA。
僕と目が合った瞬間耐えられなくなったのか、
耳を真っ赤にしてうつむいてしまった。
そして、赤くなったのはきっと僕もだ。
「…僕とでいいの?」
そんなことを言うのが精一杯だった。
いいって言ってくれてるんだからいい話なのに、
ただもう1度Aの口から聞きたくて。
僕の問いかけが沈黙に消えてしばらくして、
Aが僕の腕の青いタオルを手に取った。
『…無一郎くんがいい。……駄目、かな』
つま先立ちをしたAが腕を伸ばし、
僕の首にふんわりとタオルを掛けてくれた。
夏の夜で汗ばんだ首が暑く、熱くなる。
タオルによって首回りにこもった暑さか、
それともこの子だから起こる熱さか。
きっと両方。
でも、大きいのは断然後者だった。
「ううん。しよっか、おそろい」
パッとAの顔が華やいだ瞬間、
笛のような音と共に辺りが明るく照らされた。
次々に空に上がる花火のお陰で、
隣にいるAの顔が先刻よりもよく見える。
花火に夢中な彼女が視線に気づかないのをいいことに、横目でこっそりAを眺める僕。
ずっと見ていたい。
花火はもう音だけで充分だった。
.
『キレイだったね…!!』
「そうだね」
先刻よりマシになった人の波に逆らって、
焼きいもが売っているお店まで戻ってきた。
まるまるとした大きな芋は、
中も鮮やかな黄色ですごく甘い。
Aも満足したようで、
両手で美味しそうに焼きいもを頬張っていた。
「ふふ、ここ付いてるよ」
『え、どこ…!?』
唇についた黄色い芋のかけらを拭いとると、
Aはまた恥ずかしそうに顔を赤らめる。
先刻より小さく芋をかじるAと芋のついた自分の指を交互に眺めて、僕はなぜか違和感を抱いた。
既視感というか、知っている気がする。
前にも僕は誰かにこんなことをしただろうか。
「だからさ、ついてるんだって。食べるの下手すぎない?」
『つけてないし。食べるの上手くなったもん』
「ほっぺにつけといて何言ってんの、馬鹿」
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指切り(物理) - 素敵な作品ありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ。いやぁホントに神すぎます! (2022年4月5日 10時) (レス) @page25 id: dfc5bee49e (このIDを非表示/違反報告)
さつむいこん(プロフ) - ぱらさん» 全部の言葉が光栄でしかないです、めっちゃ幸せです…!!こちらこそありがとうございます🙇♀️ (2021年11月11日 17時) (レス) @page24 id: 423a130570 (このIDを非表示/違反報告)
ぱら - 楽しく読ませて頂きました!一個一個の言葉が胸に染みました…!素晴らしい作品をありがとうございます!! (2021年11月8日 17時) (レス) id: 1cfc9a3f72 (このIDを非表示/違反報告)
さつむいこん(プロフ) - ミユモンさん» わあぁありがとうございます光栄です…っ!!のんびり更新ですがどうぞお付き合いください🙇🏻♀️ (2021年10月28日 23時) (レス) @page11 id: dc07c220d6 (このIDを非表示/違反報告)
ミユモン(プロフ) - 言葉の使い回しがすごく好みです…更新頑張ってください🙌✨ (2021年10月28日 20時) (レス) id: 2ad0dd50d0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さつむいこん | 作成日時:2021年10月7日 23時