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君のいる朝 25 ページ29

優しい、娘だ。
怒りでくしゃりと歪んだ瞳から涙が落ちる。

「そんなの、さみしいよ……っ」

手の甲を打つ雫の熱さは、この娘の感情の温度だ。

(これは、考えを改めねばな)

聖杯の受肉。願いを叶えるという蜜を振りまいて厄災を呼ぶ器の形にしては、あまりにも人間くさい。子どもの真っ直ぐな心根に戦士の理屈を説くのも、忍びない。
オルタがこのところ角がとれたように丸くなった理由がわかった気がした。

「すまぬ、娘。泣かせるつもりはなかった」

親指でぬぐってやっても、そう簡単には涙はひかない。どうしたものかと苦笑すると、天の助けのように機械音がした。

<サーヴァントの意識レベル、回復>

はっと、Aが顔を上げてガラスに飛びつく。

「くー……!」

呼び声に応えるかのように、狂王の瞼が震える。ーーーーそれは、ひどく長い時間が流れたような感覚だった。暗色の色がのぞき、蛍光灯を煩わしそうに睨む。右、左と、視線が動き、ガラスの向こうのAをとらえた。まだ貧血気味の唇が、なにごとかつぶやく。
掛布の下の尾が、緩慢に動いた。手招きでもするように、力なくしなる。それを目にした瞬間、娘は駆け出した。
立ち入り禁止の医療室の扉へ飛び込む。魔力で入室を認証するシステムは、小さな身体の特攻を弾いた。
スカサハはすい、とルーンを描く。神代にも通ずる力を前にシステムなど無意味だ。ひとりでに開いた扉の不思議には目もくれず、一直線に駆けていく。

娘のちょうど背の丈の寝台に横たわる狂王は、尾へしがみつく娘を邪険にはしなかった。そのまま引き寄せ、まだうまく動かないなりに身じろぐと、娘の額に自分の額を押し当てる。

「くー、くー……! 会いたかった……!」

スカサハはガラス越しに、二人を見守る。まるで長年離れていた番の再会でも目にしている気分だ。娘は泣きながらも笑い、狂王は呆れたように目を閉じるが、満ち足りた表情をしている。

「あれを引き裂くとなればマスターも黙っておらんと思うぞ、キャスター」

回廊の影にスカサハは声をかける。姿を現さないのは屈折した感情のあらわれだろう。

身を乗り出して、ずるりと狂王は寝台から落ちる。焦る娘も自分の体制も気に止めず、ようやく同じ視線になった小さな身体を腕に引っ張り込む。
すまなかったと、狂王は静かに詫びる。娘は首を振って、手のひらに頬を寄せる。

二人をつなぐ淡い感情がたしかな形を得る様を、スカサハは穏やかな祝福で迎えた。

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Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - 碧依さん» わわわわ感想ありがとうございます!!2度もいただいてもったいない……!は、発狂!そこまで萌えていただけて嬉しいです!いつも応援ありがとうございます、3部頑張ります! (2018年1月11日 0時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - ありささん» はじめまして!感想ありがとうございます!1章から読んでいただけて嬉しいです!3章楽しみにしていただけている気持ちに答えられるよう頑張ります、応援ありがとうございます……! (2018年1月10日 16時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
碧依(プロフ) - 第2部完結おめでとうございます!最後の方は超絶キュンキュンして悶えながら読んでました← もう心の中で発狂してました← 第3部も続くとのことで、とても嬉しいです! 心待ちにしています! これからも頑張って下さい! (2018年1月10日 14時) (レス) id: e83e0a514a (このIDを非表示/違反報告)
ありさ(プロフ) - はじめまして、一章から楽しく読ませていただいております!三章が凄く楽しみです!これからも頑張ってください!! (2018年1月10日 13時) (レス) id: 5124bcd214 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - いよりさん» はじめまして!感想ありがとうございます!1章かは2章まで読んでいただけて嬉しいですありがとうございます……!3章もハラハラドキドキ、きゅんきゅん多めな展開を目指して頑張りますので、よろしくお願いします! (2018年1月9日 21時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Sandoriyon0000 | 作成日時:2017年12月13日 23時

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