朝と君と待雪の花

花のない庭 02 ページ2

不透明なガラスに手を当てると、魔力を認証して開いた。
庭は、面積としては横長で、端から端までちゃんと日差しが届く設計になっている。いつも薄暗い場所に光が溢れている光景は、ちょっとした感動を呼んだ。

｢お、マシュの嬢ちゃんじゃねぇか｣

声をかけられて、そこでようやく先客に気づく。休みすぎかもしれない。戦闘から遠のいて気が緩んでいるのは否めなかった。
ひとまずは挨拶である。支柱にもたれる長身の男に駆け寄り、ぺこりと頭を下げた。

｢お疲れ様です、プロトさん｣
｢おう、お疲れ｣

今日もかわいいな、と何でもないようにさらっと口にするこの人のこういう所に、マシュは慣れないし、慣れる日など来ない気がする。

このカルデアには計4人の同姓同名(クー・フーリン)がいるのだが、それぞれ現界した時間軸やクラスが違う。【プロト】はまだゲイ・ボルグを手にしていない頃の【若い】彼らしい。

若いといっても、見た目でいうならランサーもキャスターも青年と呼べる顔立ちだとマシュは思う。
ただ、プロトは他の3人に比べると、たとえば家族のポジションでいうなら末っ子のように感じる。
明るく、溌剌として、好奇心旺盛。ただ、戦闘ではやや自分を過信しすぎるきらいがあって、引くべきところを引かない頑固さは、戦局を見極めるキャスターにも落としどころを付けるランサーにもないものだ。

ひとことでいうならばつまり、彼はまだ青い。これから経験を経て、ランサーやキャスターのような大英雄になっていく、その始発点の人物。

……であるのだが、女好きはこの頃からのようだ。それも無邪気なぶん、かなりタチが悪い。
誰彼構わず、まるで挨拶のようにかわいいだの綺麗だのと口説くのだ。それでいて軽薄さもお世辞も含まれない真っ直ぐな声音で言われたら……。大概の女子はその気がなくてもきゅん、ときてしまう。

自分の生み出したくーちゃん一筋、と言っていたメイヴですら頬を染める破壊力。今日も振りまかれる核爆弾で、いったい何人の女性サーヴァントのハートが奪われることやら。

マシュは気が遠くなりながらも、ちょっと早まった心臓をなだめすかす。

改めてマスターである先輩はすごいなぁとマシュは感心した。プロトに｢マスターは最高の女だ｣と言われて｢ありがとう、プロトは最高の男だね｣と笑顔で返せる人だ。男女問わず｢惚れた｣と言わしめるマスターが、実はいちばん、タチが悪いのかもしれない。

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プロト登場。波乱の幕開け。

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