60 華やぐ場 ページ10
「A〜〜〜お姉ちゃんに会えなくて寂しかった？ 一日一回メール送るって言ってくれてたのも結局三日くらいで終わっちゃってたからさあやっぱり生の動いて喋るお姉ちゃんがいいかなって思ってさ」
「はあ？！ まさかそれだけの理由で本当に来たの？」
「いんや、雷門の長期取材は本当。編集長にこの仕事依頼された時は本当に飛び上がったよね。妹がマネージャーしてるんですーって言ったら『それじゃ都合いいじゃん行ってきなよ』って言ってくれてさ〜！」
頭が痛い。このマシンガントークを捌くコツを誰か教えてくれ。
……いや、待て。一番大事なことに今になって気がつく。考えたくなさすぎて頭の隅に追いやってしまっていたこと。
「ていうかさ……もしかしなくても、うちから通うの？」
「そーよー！ 稲妻町まわりの仕事も一気に頼まれちゃってさーこれでまたひとつ屋根の下で一緒に暮らせるねえお姉ちゃんほんと嬉しい！」
終わった。またこの猛攻撃を受けながら日常生活を送らなければいけないのか。
と、絶望にくずおれそうになる私の肩越しに姉が声をかける。
「えーと？ そこにいるのは……マネージャー仲間さんかな？」
振り向くとそこには空野さんがいた。ぽかんとした様子で私たちの会話を見ていたようだが、呼びかけられて背筋を正す。
「は、はいっ！ 一年の空野葵といいます！」
「うん、元気でかわいくてよろしい！ どう？ Aはちゃんと先輩やれてるかな？」
「はい！ A──えっと、A先輩にはいつもよくしてもらってます！ 指示も的確でわかりやすくて、マネージャーの仕事も丁寧に教えてくださいます！」
「へぇそっかそっか！ よかったーこの子部活のこととか全然話してくんないから中学でちゃんとやれてるかなあって心配してたんだよね！ 立派にやれているようでお姉ちゃんは安心！ んじゃ私監督にちょっくらインタビューしてくるね〜」
言いたいことだけ言って去っていく。それが姉のデフォルトだった。
果てしなく大きなため息をつき、私は葵に向き直る。
「葵、嫌なら嫌ってすぐ言ってね」
「いえ、嫌なんかじゃ──あ」
「ん？」
「……今、名前で呼んでくれたなあって」
──しまった。つい。
「あ、えっと。そろそろ、呼んでもいいかなって」
「……ふふ。ありがとうございます、A先輩っ」
弾けるような後輩の笑顔に、私もつられて笑ったのだった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年2月15日 9時
