56 響いた一喝 ページ6
「三国さん！──うっ……」
見ていられなくなったのだろう。霧野が立ち上がり、痛みに顔をしかめる。私はすかさずその肩を抑えた。
「駄目！ その足じゃ試合に出られない。サッカーできなくなってもいいの？！」
「そんなことはわかってる！ でもこのままじゃ……」
──と。そんな言い合いをする横で水鳥がおもむろに立ち上がり、ゆっくりとタッチラインギリギリまで歩き出した。
一体何を。そう呼びかけようとした時。
「お前ら！ あいつらのサッカーを見て、何も感じないのかよ？！」
叫んだ。フィールド全体に響くような大声で。
「フィフスセクターがどうのって、色々あんのはわかるけど……それでもあいつらは、同じサッカー部の仲間じゃなかったのかよ？！」
何人かが弾かれたように顔を上げる。
「一緒に部活して、飯食って……一緒にやってきたんだろ？！ その仲間が必死に雷門サッカーを守ろうとしてんだろ！ なのにてめぇら──何も感じないのかよっ！！」
顔を上げたが──動かない。
水鳥は悔しげに両の拳を握りしめた。
そしてボールは化身使いに渡ってしまう。
マークされて身動きの取れない神童たち。
「ハハハハ！ 『奇術魔ピューリム』──」
「駄目だ！ 今の三国さんにあの化身シュートは止められない！」
叫ぶ霧野。
虚しくも勢いを増す黒い化身のオーラ。
ここで点を入れられたら勝負が決してしまう。万事休すか──誰もがそう思った瞬間。
「『ダッシュトレイン』！」
万能坂選手に突撃する影。
車田さんだった。タッチラインから猛烈に走り出し、ボールを奪う。
水鳥の叫びが──通じたのだ。
「これ以上お前たちの好きにはさせない！ 俺たちは俺たちのサッカーを守ってみせる！」
万能坂にそう宣言した車田さんに呼応するように、他のメンバーの目にも次々光が宿っていく。
「浜野！ 俺たちも行くド！」
「やっぱ行かなきゃまずいっすよねー、この展開！」
「えっ、行くの？！ ……じゃあ俺も」
噛み合った歯車は、猛烈な勢いで回り出す。
チームが一つになっていく。同じ目標に向かって走り出していく。
その瞬間を目の当たりにして、ベンチの雰囲気も一気に明るくなった。
「行くぞみんな！ これからが本当の勝負だ！」
「「おう！！」」
「俺達雷門のサッカーを、見せてやるド！」
形勢逆転。勢いづいた雷門は、敵陣に切り込んでいく。
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年2月15日 9時
