72 狡猾な手段 ページ22
全員がポジションについた。
向こうは全員、余裕綽々でアップもろくにしていない。実力は未知数だが、絶対に負けるわけにはいかない。
「短期決戦な。先に一点入れた方が勝ち。あとはまあ適当でいいよなあ？」
三国さん、天馬、神童の順に視線を合わせ、頷き合う。
いける。信じろ。なんとかなる。
「んじゃー行くぜ」
相手からのキックオフで開始。
私はすぐさまボールを奪いに突っ込む。何が起きたかわからせないうちにシュートを決めてしまえば──
「──！」
刹那。腹に重い衝撃。
至近距離からボールをぶつけられたのだと気づいたのは、地面にしたたかに身体を打ちつけてからだった。
「A先輩！」
天馬が駆け寄って肩を貸してくれる。
ぶつけられた余韻がじんじんと腹にわだかまり、顔をしかめた。
「あー悪い悪い！ シュート打とうとしたんだけど急に目の前に飛び出してこられたからさぁ」
今岡はそう言いながら足元のボールを弄んでいる。
その顔を睨みつけ、私はどうにか立ち上がった。
それから一進一退の攻防が続く。
相手もどうやら素人じゃないようで、実力はそれなりだった。
ボールの奪い合いを始めて数秒。
──取った！ しかしそう確信した瞬間、足首を引っ掛けられて転倒する。
「お前！ 今のはわざとだろう！」
神童の声を聞きながら身を起こす。視界は地面。すりむいた手のひらがヒリヒリする。
「はあ？ サッカーなんて接触が当たり前なんだからこんなん別に普通だろ。ま、わざとだったとしても今は審判いねーからどうしようもないけどな」
取り巻きの言葉を聞いて確信する。
こいつらはあくまでも私に恥をかかせたいのだ。無様に地に伏す姿を見て面白がっているだけだ。
なら他のメンバーに危害が加わることはないはず──そう考えて立ち上がった私の後頭部にボールがぶつかった。
「あ、わりぃ。パスミスした」
下卑た笑い声がフィールドに響く。
心臓が鼓動を打つ度、傷がじんじんと痛む。痛むけど……大したことはない。
みんなが天河原戦や万能坂戦で受けた痛みに比べたら──こんなのは、屁でもない！
「なっ？！」
振り向きざま、油断していた取り巻きからボールを奪う。
そのまま神童へパス、前線に上がっていく。
右の守りが手薄だ。これなら──
「A先輩！」
天馬からのパス。強さもタイミングも完璧に思えた──が。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 69人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：キメラ | 作成日時：2022年2月15日 9時
