63 取り付けた勝負 ページ13
「そんなに謝りたくねえんなら仕方ねえ、譲歩案だ。サッカーで決着つけるってのはどうだ」
「……サッカー？」
「ああ。平和的だろ？ お互いちょうどいい人数引き連れてるわけだし」
「なっ……この人たちは関係ない──」
「拒否権あると思ってんのかよ。こっちは雷門サッカー部に直接ちょっかい出したっていいんだぜ」
静寂。通行人がこちらを見つつ立ち去っていく。
臓腑を抉るような葛藤が心の中で渦巻いていた。冷や汗が止まらない。息がうまく吸えない。
地区予選準決勝にコマを進めた今、部に迷惑をかけるわけには。どうすれば、どうしたら。
「A」
肩に手を置かれ、弾かれたように顔を上げる。
三国さんが──目に覚悟の色を滲ませ、頷いた。
「目の前で後輩を侮辱されて、俺も黙っていられるような奴じゃない」
神童に視線を移す。頷き返される。
逃げ場は……最初からない。けど隣には信頼してくれる仲間がいる。
これは喧嘩じゃない。守るための戦いだ。
小さく深呼吸を一つして、私は今岡の真正面に立つ。
「いいよ……その勝負、受けて立つ」
「決まりだな。三人……じゃつまんねえからあと一人ぐらい連れてこい。四対四な」
「わかった。こっちが勝ったら、もう二度と私たちに関わらないで」
「ああ、いいぜ。ただし負けたら……そうだな、俺の彼女になれ。せいぜい可愛がってやるから安心しろ」
試合は三日後、河川敷で。今度は逃げるなよ──そう言い残し、今岡たちは立ち去る。
その姿が完全に見えなくなったところで、私は自分の手足が目に見えて震えていることに気がついた。
＊
「本当にごめんなさい」
公園のブランコに腰掛けた私は俯いたまま、二人にぽつりと言った。
あたりはもう暗くなり始めている。
「いや、Aが謝るようなことじゃない」
「でも二人を巻き込んだ！ 今はホーリーロードも大事な時期なのに……」
こんなことをしている場合じゃないのに。元々は私がまいた種なのに。
そう言いかけるのを、三国さんが制した。
「言っただろ、後輩を侮辱されて黙っていられないって……あの男との間に、なにか因縁があったのか？」
──因縁。
あいつがああも私に付きまとってくる理由。
私があいつの顔面を殴った理由。
目を閉じると、封印していた過去の記憶が蘇る。
私の意識は……四年前まで遡っていく。
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年2月15日 9時
