352 洗脳と封印 ページ45
──だめ！
目の前が瞬いて視界が一気に晴れた。その声は、さっきの試合中に私の名前を呼んできた声と同じだった。
頭を振って脳を覚醒させる。そうして自分が今しがた抱いていた感情を顧みて、愕然とした。
時間の無駄だって？ 何故そんなことを考えてしまったのだろう。一瞬の気の迷いという言葉では片づけられないくらい、はっきりとした思いだった。
それに今の声は……これで二度目だ。小さい、子供？
デバイスが光を失う。するとベータが不意に、フェイの方に向き直った。
「フェイさん、貴方は危険な存在です。だからその存在、封印しますね」
今度は『封印モード』というアナウンスが響く。
すると信じられないことが起きた。フェイの身体が紫色の光に包まれ、デバイスの方にどんどん引きずられていっているのだ。
「圧縮された次元に封印し、たーっぷり調べてあげちゃいます」
フェイは必死に抗うが、ずるずると見えない糸に引っ張られるかのように滑っていく。
封印、圧縮された次元……さらに悪い事態になることは容易に想像ができた。
助けに入ろうにも、さっき受けた電波の影響か、身体にうまく力が入らなかった。
と、その時。フェイとベータの間に割り込む影があった。
「『ゴッドハンドV』！」
──円堂監督だった。
「みんな、ここは一旦下がるぞ！ 今の俺たちではこいつらに勝てない……急ぐんだ！」
監督の大声に、みんなは我に返って立ち上がる。そこにキャラバンがやってきた。運転席に座っているのはアルノ博士だった。
それぞれ肩を貸しあいながら、どうにかキャラバンに乗り込む。フェイも駆けてきて、最後に残ったのは円堂監督だけになった。依然として封印モードを食い止めている。
「みんな乗りました！ 監督、早く！」
「よし──」
監督がこちらを振り向いた瞬間。
デバイスの吸い込む力が強くなった。ゴッドハンドVはその勢いに負けて霧散する。
そして、消えた。瞬きした次の瞬間には、円堂監督の姿は忽然と消えていた。
息を吞む。ありえない超常現象と、監督が消えたという事実を前に、全身に鳥肌が立った。今度の鳥肌は完全に恐怖からくるものだった。
「監督！！」
「やめろ天馬！ もう間に合わん！」
「でも円堂監督が！」
隣では、飛び出していこうとする天馬をワンダバが止めている。
キャラバンはそのまま出発した。時空を超える感覚が、私たちの脳を揺さぶった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年11月2日 10時
