351 歴然とした差 ページ44
「跡形もなく叩き潰してやる！ 『虚空の女神アテナ』──《アームド》！」
再びアームド状態になったベータ。その勢いのままシュート体勢に入る。
「『シュートコマンド07』！」
尋常でない勢いを持ったボールは、雷門の誇る化身を紙屑同然に吹き飛ばした──四体まとめて。
シュートを受けたゴールネットがピンと張るのを、私は絶望的な気持ちで見つめていた。
地面に降り立ってアームドを解除したベータは、うずくまったままの私にいきなり顔を近づけてくる。そして言った。
「大したことないのね。つまらないわ」
怒りで顔が熱くなる。言い返そうと思っても、喉の奥から言葉は出てこなかった。
──何もできなかった。私はお荷物もいいところだっただろう。あまりにも弱い……弱すぎる。
唇を噛む私を見て、ベータは満足そうににっこりと笑う。その表情がまた癪に障った。
そこに審判団が、けたたましく笛を鳴らしながらフィールドに入ってくる。試合の中止が宣言されたのだ。
歴史を変えることは適わなかった。一ヶ月後の未来に戻っても……恐らくサッカー禁止令は施行されたままだろう。
圧倒的な力の差を見せつけられた悔しさが、遅れてじわじわとやってくる。こいつらに勝てるビジョンがどうしても浮かばなかった。
上空に漂っていたスフィアデバイスが、ベータの元へゆっくりと降りてくる。
「これ以上私たちのミッションの邪魔をされては面倒です。これから、貴方たちのサッカーへの情熱……ぜーんぶ奪っちゃいます」
言うや否や、ベータはデバイスに手をかざした。『マインドコントロールモード』という無機質な女性のアナウンスがフィールドに響く。
すると不可視の電波が瞬く間に広範囲を覆った。
すぐに私は妙な感覚を味わった。
身体は動いていないのに、脳だけがひとりでに浮かび上がって揺さぶられるような感じがするのだ。
不快ではなかった。ただ少しぼんやりした。眠気にも近い。そうしてぼんやりとデバイスの光に目が釘付けになって、
──私はなんでサッカーをやっているのだろう。
なにもこんな痛い思いをしてまでやることはなかった。私が試合に出なくても結果は変わらなかっただろうから。
サッカーがなくなっても別に生きていける。今の今まであんなに躍起になっていたのが不思議だ。
ひどく時間を無駄にしてしまったように思う。もう帰ろう。帰ってバイオリンを弾かないと──
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 173人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：キメラ | 作成日時：2022年11月2日 10時
