343 タイムジャンプ ページ36
「うん、その意気だ！ そしてみんなにはこの大監督、ワンダバ様がついている。何も心配はない──」
「「円堂監督、お願いします！」」
意気込むワンダバの前を全員が素通りして、円堂監督の元に集まった。
ずっこけるワンダバの姿がなんだか不憫で、私は思わず話しかけてしまう。
「貴方、監督だったの？」
「うむ。何しろ私は偉大な──ああそうだ、君、ここ最近で何か身体に異変を感じたりしたことはないか？」
急な話題転換に、私は目を丸くする。自分の身体は健康そのもので、今年に入ってからは風邪ひとつ引いていない。
「ううん、特には」
「そうか。いやこっちの話だ。しかしあれは一体何だったのだろうな……」
言ってから私は、河川敷と更衣室で感じた違和感を思い出した。胸がちょっと締まるようなあの感覚だ。
さっきの解説の途中で私の名前が出たのと関係があるのだろうか。だけど今聞ける雰囲気ではなかったので、それ以上は聞かなかった。
「はりきるのはいいが、アーティファクトはあるのか？」
士気を上げた一同に、博士が問いかける。
「アーティファクト？」
「タイムジャンプに必要なんだ。インタラプトに関係あるものだったらなんでもいい。サッカーボールでもユニフォームでも」
「あ、じゃあこれはどうだド？」
天城先輩がロッカーから取り出してフェイに見せたのは、あの試合のチケットの半券だった。
「うん、これならいけるよ！」
それからすぐグラウンドに集合した私たちは、何もない空間から空飛ぶキャラバンのようなものが出現するのを見た。
動力部と思しき部分は近未来的な推進装置がついていて、微かに七色の光を放っている。
私たちは怖々とそれに乗り込んだ。運転席付近に台座のような装置がある他は──そこにアーティファクトを設置するらしい──普通のバスの車内と変わらない。
運転席にはワンダバが座った。全員がシートベルトを着けたのを確認すると扉が閉まり、車体が浮き上がる。
ここに来てなんだか怖くなってきた。これは遊園地のアトラクションとは違う。
数列後ろに座っている神童の顔を見ると目が合った。神童は頷いてくれた。
「では行くぞ！ タイムジャンプ5秒前、4、3、2、1──タイムジャーーーンプ！！」
キャラバンは勢いよく発進する。ぐうんと身体が前に引っ張られる感覚と、一瞬の浮遊感と共に……私たちは時を超えた。
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年11月2日 10時
