339 未来からの来客 ページ32
自立して動き、そして人語を喋っている。一体どういう仕組みなのか、どこから来たのか。
突然の闖入に、その場の誰も何も言えなかった。
「間違いない。奴らが日本対アメリカの試合に介入したのだ……全く油断も隙もない奴らだ」
テディベアはぶつぶつ呟きながら、椅子の上にひょいと飛び乗る。
「これはこれは初めまして。私はクラーク・ワンダバット。ワンダバと呼んでくれたまえ！」
得意げに胸を反らす姿だけ見たら可愛らしかったが、どこか鷹揚とした口調がそれをかき消していた。
このワンダバとやらは、何の目的で私たちの前に現れたのだろうか……と思った次の瞬間。
「やあみんな、初めまして！」
また新たな来客が訪れた。その子──私たちと同い年くらいの少年は薄緑の髪を高い位置で二つに纏めていて、オレンジ色のどこか近未来的な服を着ていた。
次から次に現れる珍客に、なんだか目が回りそうになる。
そんな私たちの様子を、ビー玉のようにつややかな目で見回したワンダバは、器用に腕を組んで言った。
「みんなもだいぶ混乱しているようだな、無理もない。ひとまず我々の目的と今起こっていることを、順々に説明しよう」
＊
「──というわけで私、クラーク・ワンダバットは、決して怪しい者ではない！」
十数分ほどかけて説明された事柄は、にわかには信じ難いことだった。
世界全体の意思決定をする機関『エルドラド』によって決められた、サッカーそのものの消去。
それは今から二百年後の未来で起こっている戦争を阻止するため。『セカンドステージチルドレン』──優秀なサッカープレイヤーの遺伝子から発生した少年たちが、人類の敵になっているから。
その事態を受け、サッカーが消される未来を阻止するために二百年後の未来から来たワンダバと、少年──フェイ。
まるで漫画かアニメのような話だ。未来の人間は時を超え、歴史に干渉することができるというのだろうか。
変えられてしまった過去と言われても、そういった認識は全く持てない。あの悲惨な親善試合は、不変の事実として私の頭の中にある。
「サッカー禁止令も過去を変えられてしまった結果」
「その通り！」
茜の言葉に、ワンダバが大きく頷いた。
茜はこういうことの呑み込みが早い。SF三級と言っていたか、その知識が活きたみたいだった。
私たちは変えられた世界の上にいる──そう思うとなんだか急に居心地が悪くなってきた。
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年11月2日 10時
