29 管理されたサッカー ページ29
「みんな、ドリンク用意してるから……ちゃんと水分補給してね」
ベンチに戻ってきたメンバーに、音無先生が声をかける。
けれどみんなはそれぞれボトルを手に取って、一口含んだだけだった。運動量が少ないから、水分を摂る必要がないのだ。
誰も何も喋らない。そうすることが暗黙の了解であるかのように。
「どうしてあんなプレーをするんですか！」
そんな中で声を張り上げたのは、やはり松風だった。
「キャプテン！ なんで本気で戦わないんですか？！ 先輩たちが本気を出せば、栄都学園の守りなんて簡単に崩せるじゃないですか！」
──さすがに、気がついたみたいだった。
詰め寄られた神童は、眉間に皺を寄せて拳を握りしめている。その苦しげな様子が見ていられなくて、私は目を逸らした。
「なんで本気を出さないんですか！ 先輩たちは、負けてもいいんですか？！」
「いいのよ、負けても！」
音無先生の声に、場が静まり返る。
数秒して上げられたその顔には、影が降りていた。
「天馬くんたちにはまだ言ってなかったけど──この試合は初めから、3-0で雷門が負けることが決まっているの」
先生は一年生たちに対して、ぽつぽつと説明を始める。
学校の価値がサッカーの強さだけで決まる時代。フィフスは試合の点数を決め、勝敗指示として各学校に通達していること。
指示を守っていれば勝ち試合がいずれ回ってきて、学校の評判が維持できること。
「──それが今のサッカー界の実情なの」
「そんなのおかしいですよ……初めから点数が決まってるなんて、そんなのサッカーじゃない！」
「お前に何がわかる！！」
神童の怒号が響き渡る。
「お前に何がわかるんだ……俺たちがどんな気持ちでサッカーをしているのか。三国さんがどんな気持ちでシュートを入れられているのか！」
溜め込んでいた思いが、吐き出される。
「俺たちだってやりたいさ、好きなサッカーを思いっきり！ けどフィフスセクターに逆らったら、サッカー自体ができなくなってしまう！ だからこそ俺たちは──」
神童はそこで言葉を切り、ベンチから立ち去った。
霧野が後を追いかけようとするのを反射的に制止する。今は一人にさせてあげたほうがいい。
私たちは部だけではなく、学校自体を背負っているのだ。
だからこの試合は──あと一点、栄都がゴールして終わってくれれば、それで。
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キメラ(プロフ) - 充滞さん» 充滞さん、コメントありがとうございます。そう言っていただけてとても光栄です、励みになります！ マイペース更新ですが見守っていただけると嬉しいです。 (2022年5月24日 21時) (
レス) id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
充滞(プロフ) - キャラがとても公式よりで、とてもドキドキしました！主人公が抱く神童への劣等感、羨望を感じます。木から落ちる主人公を剣城が受け止めるシーンにときめきました。この小説を作ってくださりありがとうございます (2022年5月23日 11時) (レス) @page49 id: 7d360b94a4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年2月3日 23時
