4.高貴為る振舞い ページ10
バタバタと大きな館を駆け回り、最初に入った扉のドアノブをガチャガチャと捻る。
「……開かない!!」
焦りながら扉を開けようとするも、その扉が開くことは無い。
いつあの吸血鬼達が追い掛けてくるか分からない状況の中、開かない扉と格闘している暇なんてないのに。
扉は開こうとせず、ただ私の焦りだけが増して行った。
「扉、開かへんで」
「っきゃああぁぁッ!」
ふ、と柔らかな口調が耳朶をくすぐる。
突然背後から何の気配もなく包み込まれて、そうして、ほぼゼロ距離で声を掛けられたものだから私はみっともなく大きな悲鳴を上げてしまった。
「へぇ、美味そうやん。こっち、来て」
「ちょ、離して!」
乱暴に腕を掴まれて、そのまま思い切り引っ張られて歩く。
到底、男の力ではないような圧倒的なものにあぁ、と落胆する。
彼もまた、吸血鬼じゃないか。
そう考えた瞬間、何か諦めが見えてしまって、もうこのまま、だなんて考えてしまう。
けれどだめだ。こんな所で人間でもない吸血鬼なんかに殺されて私の人生は終わる、だなんてあっていいはずがないし、未練タラタラで成仏もされないままこの世に残る。
「いった!」
「さて、まず、何でこんな所に居るん?」
どこかの部屋に入ったかと思えば、そのまま乱暴に投げ捨てるかのような形でその場へと突き飛ばされる。
部屋は綺麗に整頓されていて、無駄なものが何一つない、と言った状況の部屋であった。
私の痛い、と言う声をも無視して、吸血鬼は冷たい冷たい琥珀のような瞳を私に向けてきた。
「……迷ったんです、友達とパーティに行くはずだったのにこの館に迷いました」
「ふぅん。で、何でそんな走り回れるぐらいに元気なん?」
泥を投げつけるかのような誹笑を向けられて、私は臆病にもヒヤヒヤとしてしまう。
吸血鬼は人間を嫌うのは知っている。けれど、この吸血鬼は異常なまでに人間を嫌っているのではないだろうか。
こんな冷たい瞳で誹り笑われているのだから、そうとしか考えられない。
「……紫の人が、逃がしてくれました」
「…チッ………なんでこんな家畜を館に置いとくんか訳わからへん…」
不愉快千万。
アシンメトリーの長い前髪をかき上げて嫌悪感に塗れた嫌な舌打ちを短く、大きく響かせる。
「私、帰りますから、だから出口を……───」
「は?出口?帰る?何言うてんねん。家畜風情が吸血鬼に命令するとか論外なんやけど?」
また、大きく舌打ちが鳴り響いた。
1326人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ちょこ - 終わってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます! (2021年6月8日 18時) (レス) id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
鎖座波(プロフ) - 皇咲鈴音さん» びっくりしました誰かと思いました笑 みかんさんありがとうございます!本当嬉しいです大好きです(;;) (2020年10月28日 23時) (レス) id: 9beb0497a0 (このIDを非表示/違反報告)
皇咲鈴音(プロフ) - すごい名前になってますがTwitterのみかんです( めっちゃめっちゃ内容好きです!! (2020年10月28日 22時) (レス) id: 72e21fad30 (このIDを非表示/違反報告)
あーちゃ(プロフ) - 物語の構成が好みすぎました!!更新おまちしております!!! (2020年3月27日 16時) (レス) id: c45d7c6a24 (このIDを非表示/違反報告)
鎖座波(プロフ) - nanaseさん» そのように言って頂き嬉しいです…!コメントありがとうございます!更新頑張ります…! (2020年3月8日 6時) (レス) id: 7dc015f2ad (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:鎖座波 | 作者ホームページ:もう既に血が足りない
作成日時:2019年10月19日 15時